「甘ったれてんじゃねぇぞこんのクソガキがあぁぁっ!」

 叫び声と共に放たれた銃弾を、アメはすんでのところで躱す。しかし、躱した際に大きく崩れた体勢をチルは見逃さなかった。次から次へと撃ち込まれる弾には迷いがない。それに対するアメはというと、ずっと避けるばかりの防戦一方だった。



 産まれ落ちた時から、もう既に人生の大半は決まっている。
 アメはいつもの朝のルーティーンとなっているジョギングをこなしながら、眩しいほどに光を届けてくる太陽を睨みつけた。いけ好かないわけではないけど好きにもなれない。そんなモヤモヤした気持ちを抱いては、頭を振って思考を放棄する。
 訓練学校の生徒の年齢はバラバラで、能力のみで編成されている。上から順にS、A、B、Cとあり、アメが所属するクラスSは、合計しても10名程度の少数クラスである。その中でも特に優秀である生徒は特待生と呼ばれており、現在の特待生はアメ、そして、チルの2名だった。
 アメとチルは幼馴染である。産まれた時からずっと一緒で、家も隣で、何もかもが、ずっと同じ。この訓練学校でも同じタイミングで特待生になった。違うことといえば、性格や戦い方、食の好み、つまるところ人間性。むしろ、違うことの方が多かったが、チル曰く「うちらで決めれないものが同じなんだよ!?そっちの方がだいぶ運命じゃん!」だそう。アメはその言葉を、いつもぼんやりと受け流していた。
 そう、うちらで決めれないものが、世の中には沢山ある。

 _____耳鳴り。
 地面の砂をギリッと踏みしめ、重心を低く保つ。手に持つアサルトライフルが、いつもより重いとアメは感じた。木の陰に隠れて周囲を警戒してみれば、確認出来るのは恐らく5体。
 ……いけるか?
 そんな少しの不安も束の間、向こうからの動きを察知してアメも銃を構える。瞬時に木の陰から身を乗り出せば、こちらに向かってくる黒い影に1発、次の影に1発と撃ち込んだ。
 狙うは心臓、その一撃で殺す。それがアメの戦い方。 無駄はいらない。躊躇いも、何もかも、いらない。必要なのは理解のみ。それは訓練学校で嫌という程教えられてきた。「今の状況を理解しろ。自分の位置、敵の位置、味方の位置、そして自分の存在理由を」と。
「……くそっ」
 襲ってくる影を1つ、2つ、と撃ち、最後の1体をアメは見失う。恐らく逃げた訳では無い。気配はまだ少しある。どこだ?どこにいる?どこで私を、殺そうとしている。
 ガサッ。
 音が背後からして咄嗟に振り返り、思わずアメは言葉を失った。目の前でアメに銃を向ける相手は、凍えてしまいそうなほど冷酷な表情で。あぁ終わりだと、アメは本能的に理解する。
「……チル」
 私達は、どうして。