あなたがこの家に来た時の事を、今でもよく覚えています。ドキドキしていて、でもどこか不安そうで、私に触れる手が震えていたのは、今では懐かしい思い出ですね。今日は少しだけ、この1年を振り返ってみようと思います。

 春。新しい環境に慣れずに苦戦して、それでもなんとか自炊を頑張って、たくさんの事に挑戦していました。友達が出来ない、とか、部屋が片付かない、とか、たくさんの悩みがあなたを苦しませていたけれど、何もかもが新しい悩み。ひとつひとつに何とかして立ち向かっていくあなたを、私はずっと応援していこうと決めました。

 夏。夏の暑さに死にかけている日もありましたが、少しずつ周りの環境にも慣れて楽しくなって来たあなた。成長を少しだけれど感じることができて、私はとっても嬉しかった。けれど少しだけ、自炊をサボるようになってきたのも、夏でしたね。

 秋。今までたくさん頑張ってきたあなたが、ほんの少し、立ち止まった季節です。辛いことや悲しいことをたくさん経験して、一人で戦ってきたあなたがたくさん泣いた季節。私を背に声を出してわんわん泣くあなたを、歯がゆい気持ちで見守っていたのがこの間のようです。帰る度に泣いていたあなただけれど、きっと強くなろうと心が頑張っていたんでしょうね。一人じゃないことを、どうか、思い出してね。

 冬。あなたが一歩一歩踏み出していく姿は、きっと春には想像できない姿だったでしょう。周りから認められ始めたことが嬉しくて、笑顔が多かった記憶があります。だけどそれと同じくらい、悩む事も増えましたね。でも春や夏との悩みに比べると、とっても難しい事が増えたような気がします。




 あなたはこの1年を通して、本当に成長したと思います。それは毎日あなたを見守る私だからこそ、胸を張って言えます。私に突進してきたり、忘れ物を何度も取りに来たり、ちょっとだけそそっかしいあなたは、きっとこれからたくさんの人に愛されるはず。だから、泣く時はいっぱい泣いて、笑う時は目いっぱい笑って、この家に帰ってきてくださいね。



 私はあとどれくらいあなたを見守ることが出来るのでしょうか。あなたを生まれた時から見守ってきた人と同じくらい、いや、それ以上に見守れるでしょうか。
 あなたが安心して帰ってくるのを、私は許される限り待っています。


 だからこれからも、行ってらっしゃい、おかえりなさい。今日もよく頑張りました。















※2017年12月18日の自身主催朗読イベントより、自分で書いて自分で朗読した原稿そのまま。