宮沢賢治の未完の小説『銀河鉄道の夜』の冒頭に,夏の夜空に川のように見えるぼんやりとした白いものが何であるかを先生から問われたジョバンニが質問にうまく答えることができずに目に涙を溜めるシーンがあります。
もちろん『白いもの』とは「天の川」のことを指しており,その天の川が白くぼんやりと見えるのはたくさんの小さな星が集まっているからですね。
私も10年ほど前に沖縄を旅した時,灯りのない真っ暗な中で見た天の川を今でも思い出します。
その一方で,普段都会に住んでいると街明かりが星の光を掻き消してなかなか見ることができません。
もうすでに秋も深まり天の川撮影の旬は過ぎてしまいましたが,先日灯りの少ない郊外へと出向いたときに天の川を観察する機会がありましたので,今回はそちらについて記載しておきます。
天の川がそもそも何なのかを知らない人が結構いることを知って少し驚きました。
たしかに学校で教えられた記憶もあんまりないですし,興味がないと特に覚える必要もないことなのかもしれませんね。
■■■
私たちが住んでいる太陽系が属する銀河は特に「銀河系」と呼ばれ,他の銀河と区別されます。
そして太陽系は銀河系の円盤のどちらかと言うと隅のほうに位置します。
【出典】NASA
一方で銀河系の中心には星がたくさん集まりとても明るく光っています。
天の川とは,地球から銀河系中心方向を眺めたときに見える「銀河系円盤を横から見た断面」なのです。
そのため銀河系のことを「天の川銀河」と呼んだりもしますね。
私たちは銀河系の内側にいるので,外側からこの天の川銀河がどんな形になっているのか正確に知ることは困難ですが,実は「天の川」という形で私たちにその壮大なる姿の片鱗だけは見せてくれていたんですね。
YouTube動画を勝手に拝借させていただきますが,銀河系の端っこにいる地球から銀河中心部を眺めていることを意識して動画を見るとまた迫力もひとしおです。
回っているのは地球の方なんだと改めて気づかされます。
さて,日本では天の川の見頃は7月から9月ごろまでと言われています。
秋になると,天の川で最も明るく輝く中心部は夕方西の空にあるため見づらくなります。秋の夜に見えるのは中心部から少し離れたやや暗めの天の川銀河断面です。
真冬になると天の川中心部は昼の空に上ることになるので見ることができなくなります。
一方で真冬の夜には地球から見て銀河中心方向とは反対側(銀河系の端の方角)の天の川(冬の天の川)が見えますが,銀河系の端は星も少なく暗いのであまり話題には上がりません。
やはり天の川観測には夏がベストシーズンなのです。
■■■
さて日付は秋も深まった2022年10月15日。
夜になると天の川の明るい中心部はすでに地平線の下へと潜ってしまいましたが,街灯のない郊外の町から夜空を見上げると星空がとてもキレイに観察できました。
そして中心部を失った暗めの天の川も肉眼でも見えたのでした。
都会では見ることができない,数多くの星が夜空に光ります。
今回は星空撮影をする目的で郊外に来たワケではなかったので,私としては思いもよらない星空でした。
辺りは真っ暗なので手元が狂ってカメラのセッティングなどがなかなか進まない。
レリーズも準備していなかったので写真はややブレているかもしれませんが,下の写真中央に天の川が鈍く光っているのが分かりますかね?
もう少しコントラストを上げてみます。
うっすらと見える天の川の帯。
中央左上に光る明るい星がわし座のアルタイル。
写真右上に輝く星がこと座のベガです。
直線に伸びる点線は飛行機の軌跡。
広角レンズが欲しいところでしたが,今回は天の川を撮影できただけでも満足です。
真っ暗な中でとにかく手探りの撮影でしたので,天の川撮影するためのカメラの設定などはあらかじめ確認しておけばよかったと今さら少し後悔はありますが。
まぁ久しぶりに天の川を肉眼で確認できた貴重な体験として,間違いなく私の記憶には刻まれたのでした。
というわけで,真夏に見えるほどの明るさはないものの秋の天の川を肉眼でも観察できました。
都会に住んでいては見ることが難しい景色だと思いますので,なかなか貴重な体験です。
郊外に行けば肉眼でも秋の天の川をはっきり見れるのは新しい発見です。
来年の夏には広角レンズ(あとはレリーズ)も携えて明るい天の川の撮影に挑戦することにでもしましょう。
それまでに広角レンズを買わねば。