ビタミンF | つれづれログ

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色々な事を徒然なるままに書いていこうと思います

ビタミンF (新潮文庫)/重松 清
¥540
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38歳、いつの間にか「昔」や「若い頃」といった言葉に

抵抗感がなくなった。

40歳、中学一年生の息子としっくりいかない。

妻の入院中、どう過ごせばいいのやら。

36歳、「離婚してもいいけど」、妻が最近そう呟いた……。

一時の輝きを失い、人生の“中途半端”な時期に差し掛かった

人たちに贈るエール。

「また、がんばってみるか」、心の内で、こっそり呟きたくなる

短編七編。

直木賞受賞作。


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ビタミンFのFは、FamilyやFather、FriendなどFで始まる言葉。

各話に「F」のテーマが埋め込まれている。


それぞれの家庭は、様々な問題を抱えている。

子供のこと、奥さんのこと、ご近所さんのこと。

ありがちな問題と言えなくもないが、実際世の中には

そういった問題が山程あり、たくさんの人が悩んでいる。


それらについて悩みながら向き合っていくおじさん達の

姿を描いている作品だ。


僕は本作から色々な価値観を学ぶ事が出来た。


印象的だったのは、立派で理想的な父親であろうとする事の弊害。

家庭の中のお父さんのイメージは、ネガティブな物が目立つ。
中年太りや体臭、オヤジギャグ、休日のゴロゴロした姿などなど。

そんな中で主人公の一人である雅彦は、仕事は完璧にこなし、
家庭でも子供の事に関して深く真剣に考え、心配するような一見
立派なお父さんとして振舞っていた。

その姿は格好良いが、実はそれが奥さんや子供には
負担となっており、やがて不満が爆発してしまうというエピソード。

誰にでも自分が目指す理想像のような物があると思う。
それに向かって努力する事は必要な事だし、立派な事でもある。
ただ、素の自分をさらけ出す事も大切だいう事。

考えてみたら、完璧でスキの無い人が家にいたら、疲れる。

僕はスキの無いような人ってあまり好きになれない。
尊敬はするけれども。
作中にもあった表現「ロボットのような人」に対して、人間として
好意が持てるかというとそうでは無い。

自分の短所を素直に認めて、時には人に弱みを見せる事を
出来る人はとても感じが良い。

家庭や親しい人間関係においては、ありのままの自分をさらけ出す
事も大事なんだよなぁ。
そうする事で、相手も心を開いてくれる。

僕も将来、良い父親になりたいと思っていたが、完璧を目指して
頑張り過ぎないようにしよう。
その方が自分や周りの人も幸せになれそうだ。


もう一つ印象に残った言葉。
「家庭とは皆がそこから出ていきたい場所」

主人公の拓己はみんなが帰りたい場所を家庭だと思っている。
実際、幸せと言える家庭を築いている。

そんな拓己が、姉の元旦那から言われた言葉が上記だ。
確かに、元旦那のように離婚する人は出ていきたい気持ちが
そうさせたのだろうし、子供が成長して一人暮らししたり、
結婚して自分の新たな家庭を築く場合もそうだと言える。

そう考えると言い得て妙な話だ。
家族が離れる事で、また新たな家族が生まれる。
別れがあれば出会いがあるように。

そう考えると、いづれは出ていきたくなるであろう場所を
一生懸命作るのも悪くはないなと思う。


各話で最後には希望の光とも言える展開が用意されている。
たとえ問題が完全に解決しなくても、希望があれば人間頑張れる。
そうして世の中の多くの人が頑張っている。
僕も頑張ろう。