第76回 代表曲と売れた曲は一致するのか
西城秀樹
亡くなられた今も、時々テレビ番組で特集が組まれるほどの大スターだった秀樹。長い期間一線で活躍し、ヒット曲も数知れず。私が物心のついたときには、すでにスターだった秀樹の代表曲は?と問われると、あれとこれと…と何曲か上がってきそうですが、それらは実際に売上でも実績を残しているのでしょうか?というところを今回追ってみます。
【助走期】 1972~1973年
「恋する季節」「恋の約束」「チャンスは一度」「青春に賭けよう」
デビュー曲こそ42位と目立ちませんでしたが、2ndシングルでトップ20入りときっかけを掴み、売上も二けた万枚にのせます。知名度も徐々に広げ、あとはいい作品に出会えれば、すぐにでも火を噴きそうな状況にありました。
【人気爆発期】 1973~1974年
「情熱の嵐」「ちぎれた愛」「愛の十字架」「薔薇の鎖」「激しい恋」「傷だらけのローラ」
そしてその時が来ました。♪君が~望むならと歌うと ≪ヒデキー≫ というコールが話題になった「情熱の嵐」がトップ10入りすると、続く2曲「ちぎれた愛」「愛の十字架」が続けてオリコン1位を獲得。「激しい恋」では♪やめろと言われても のあとに≪ハッ ハッ≫という合いの手を入れるのが子供たちの間で大流行りし、50万枚を達成。続く「傷だらけのローラ」も大ヒットし、一気にトップアイドルに上り詰めていったのでした。
【セールス安定期】 1974~1976年
「涙と友情」「この愛のときめき」「恋の暴走」「至上の愛」「白い教会」
スターの座を手に入れた秀樹は、出す曲はコンスタントに20~30万枚前後の売上を安定して上げられるようになりました。企画盤は別にすると、順位的にもトップ10の中位には必ず入り、スターとして着実に歩みを進めていきます。ただこの時期は、爆発的なヒットや、話題性のある作品には恵まれず、やや停滞感もあったかもしれません。
【阿久悠+三木たかし作品で少年から青年への脱皮】 1976~1977年
「君よ抱かれて熱くなれ」「ジャガー」「若き獅子たち」「ラスト・シーン」
「ブーメランストリート」「セクシーロックンローラー」「ボタンを外せ」
そして少年からいよいよ青年への脱皮を図るべく、作詞阿久悠+作曲三木たかしの7連作がつぎ込まれます。情熱的なボーカルを生かしたものもあれば、抑え目な歌唱でじっくり聴かせる作品もあり、いろいろなタイプの曲への挑戦が続きます。歌詞もかなり大人を意識したものになってきた一方、セールス的には20万枚前後のものが多く、時にはトップ10を逃す作品も出てきて、やや伸び悩んでいる印象のあった時期でもあります。「ブールランストリート」のサビの♪ブーメラン ブーメラン… は子供たちにはインパクトがあって人気でしたが、売上的には前後とさほど変わらず、「セクシーロックンローラー」「ボタンを外せ」とセクシー路線も探ってみたりと、いろいろと試行錯誤が続いているようにも見えました。
【現状維持期】 1978年
「ブーツを脱いで朝食を」「あなたと愛のために」「炎」
「ブルースカイブルー」「遥かなる恋人へ」
売上枚数、最高順位ともに横ばいで現状維持という状態だった1978年ですが、少しずつ歌唱が評価されだしたのがこの時期だったように思います。楽曲やパフォーマンスとしては、ライターの火を使った演出が話題になった「ブーツを脱いで朝食を」、歌で聴かせる壮大なバラード「ブルースカイブルー」だったりと、話題になる作品も出してはいましたが、セールス的にはさほど目立ちませんでした。
【2度目のピーク】 1979年
「YOUNG MAN」「ホップ・ステップ・ジャンプ」「勇気があれば」
そんな中突然のように火を噴いたのが「YOUNG MAN YMCA」で、テレビのザ・ベストテンでは初の満点をたたき出したことでも話題になり、YMCAのアルファベットを表現した振り付けが大流行。キャリアにおいては2度目のピークを迎えることになりました。その勢いでリリースした次の「ホップ・ステップ・ジャンプ」は前作と同系統の乗りの良い作品、続く「勇気があれば」は雰囲気をがらりと変えた聴かせる曲ということで、この年のシングルはいずれも30万枚を超える売上を残しました。当然賞レースにも絡むべきところなのですが、その中でも権威のあった当時のレコード大賞は、海外の曲は対象外ということで、「YOUNG MAN」は外れてしまったのが、今となっては残念でした。
【再び安定期】 1980年
「悲しき友情」「愛の園」「俺たちの時代」「エンドレス・サマー」
「サンタマリアの祈り」「眠れぬ夜」
1980年代に入ると、前年の熱狂は落ち着いて、再び安定期に入ります。「エンドレス・サマー」「サンタマリアの祈り」ではトップ圏内に入ることはできなかったものの、カバー曲「眠れぬ夜」で再び上昇と、年を通じると安定した実績をあげられたといっていいでしょう。
【ガール三部作】 1981年
「リトルガール」「セクシー・ガール」「センチメンタル・ガール」
秀樹の作品としては甘く優しい雰囲気のガールシリーズ3曲ですが、「セクシー・ガール」なんかは横浜銀蝿の作詞作曲だったりして、いろいろな作品に挑んでいこうといったところは感じられます。ただ「センチメンタル・ガール」がオリコン最高17位と、通常シングルとしてはデビュー直後以来の低い順位となり、そろそろアイドルとしては限界かという雰囲気は漂い始めていました。
【アイドル晩年期】 1981~1983年
「ジプシー」「南十字星」「聖・少女」「漂流者たち」「ギャランドゥ」
「ナイト・ゲーム」「哀しみのStill」
発売直後に紅白で披露した「ジプシー」はおそらく気合がはいっていたと思いますし、個人的には売れても全然おかしくない曲だと思ってもいましたが不発。ただ次の「南十字星」は映画の主題歌ということもあって、トップ10&20万枚オーバーと復活。さらに吉田拓郎作曲の「聖・少女」もヒットし、1曲挟んだ「ギャランドゥ」も話題になるなど、まだまだ健在というところを見せましたが、この時期がアイドル西城秀樹としては最後の輝きでした。以降企画ものを除くと、トップ10から遠ざかっていくことになります。
【大人の歌手への転換期】 1984~1985年
「Do You Know」「背中からI Love You」「抱きしめてジルバ」
「一万光年の愛」「ミスティー・ブルー」など
長い間トップアイドルとして頑張ったきたものの、さすがに年齢とともに、いつまでもアイドルでいるのも難しく、大人の歌手としての転換を迫られる時期になってきます。ワムのカバーで郷ひろみとも競作になった「抱きしめてジルバ」や「一万光年の愛」などはセールスも健闘しましたが、それ以外の曲は30位、そして50位と順位を下げていってしまいました。
【低迷期】 1986~1991年
「追憶の瞳」「約束の旅」「心で聞いたバラード」など
1980年代後半になると、ちょっとしたヒットも出なくなり、ヒットチャート上位からは完全に外れた存在となり、さすがにもう終わったかという空気も流れてから、長くなってきました。
【最後の一花】 1991年
「走れ正直者」
そんな中で突如最後の一花を咲かせるヒットとなったのが「走れ正直者」でして、アニメちびまる子ちゃんのエンディングに起用されたことで、今までにないコミカルな作品がヒット。久しぶりにトップ20入りと10万枚超えを果たし、子供たちにもアピールすることができました。
【もがき苦しみ伝説に】 1991年~
「moment」「ターンAターン」「バイモラス」他
その後も地道に歌手活動を行いながら、2000年代に入るとようやく年貢を納めて結婚を発表し、落ち着いた生活が訪れるかと思いきや、複数に渡る大病で歌うこともままならなくなるなど、苦しい時期が続まようになります。それでも完全復活に向けて頑張っている姿も見られたりしたのですが、残念ながらまだまだこれからという年齢で他界されてしまいました。
■売上枚数 ベスト5
1 YOUNG MAN 80.8万枚
2 激しい恋 58.4万枚
3 ちぎれた愛 47.5万枚
4 ホップ・ステップ・ジャンプ 36.9万枚
5 愛の十字架 35.2万枚
上位5曲ですが、発売時期が1973年後半から1974年前半に3曲、1979年に2曲と、5年を挟んだ2回のピークに集中しているのが面白いところです。
■最高順位
1位 … ちぎれた愛、愛の十字架、YOUNG MAN
2位 … 激しい恋、傷だらけのローラ、ホップ・ステップ・ジャンプ
1位が3曲、2位が3曲と、意外に少ない印象かもしれません。1970年代はまだアイドルがその個人の人気だけで1位をとるということはあまりなくて、もし西城秀樹が80年代に登場していたら、おそらくナンバー1ヒットを連発していたのではないでしょうか。
■代表曲
1 YOUNG MAN
2 傷だらけのローラ
3 ギャランドゥ
4 情熱の嵐、激しい恋、ブーメランストリート、ブルースカイブルー
〈人気曲〉ではなく西城秀樹を象徴する代表曲ということだと、1位は「YOUNG MAN」でしょう。その次が初期の「傷だらけのローラ」、このあたりは当時も売れたし話題にもなり、固いところでしょう。その次の「ギャランドゥ」に関しては、アイドルとしては晩年期の作品で、年月とともになぜか西城秀樹を象徴する曲になっていった不思議な存在です。
■好きな曲 ベスト10
1 悲しき友情
2 セクシー・ガール
3 君よ抱かれて熱くなれ
4 ブルースカイブルー
5 聖・少女
6 炎
7 眠れぬ夜
8 リトルガール
9 ジプシー
10 ラスト・シーン
曲数が多いので10曲まで選びました。「YOUNG MAN」はあまりにも聴きすぎたので、敢えて入れることもないかなという感じです。「悲しき友情」は圧倒的に好きで、歌詞もメロディーもドラマティックな展開で、ついつい入り込んでしまいます。
確かに「YOUNG MAN」は圧倒的に売れているし、間違いなく秀樹の代表曲なのですが、次点以降の曲はどれかとみたとき、枚数にしても、順位にしても、ちょっと違和感を覚えるのですよね。大して売れなかった「ギャランドゥ」がいつのまにか代表曲の1つになってしまいましたし、「傷だらけのローラ」にしても「ブルースカイブルー」にしても飛びぬけて売れているわけではありません。逆に「ちぎれた愛」「愛の十字架」あたりは、必ずしも秀樹を象徴する作品でもないような気もします。
結論:「YOUNG MAN」を除くと、売上と印象はあまりリンクしていない



































