第82回 代表曲と売れた曲は一致するのか

 

佐野元春

 

シングルのセールス面ではヒットするのに時間がかかったアーティストですが、そのヒット以前から既にカリスマ的な人気を持っていたアーティストで、私の高校時代にも佐野元春を崇拝する友人たちは多かったです。なので本質的には、シングル曲の売上が評価に対してあまり影響しないアーティストだとは感じてはいますが、この企画はあくまでもシングルの実績で振り返っていくことにしていますので、その点はご容赦ください。

 

【黎明期】  1980~1981年

「アンジェリーナ」「ガラスのジェネレーション」「Night Life」

「SOMEDAY」「ダウンタウン・ボーイ」

シングル曲は全くといて売れていません。売れてはいないのですが、この頃の曲は何度もラジオなどで耳にしたものが多く、初期の佐野元春を象徴する作品が並んでいます。むしろ後年に売れた曲よりも認知度が高いぐらいで、その点でかなり不思議な感覚ではあります。特に「SOMEDAY」は人気の高い曲で、これがトップ100にも入っていなかったなんて…と思うくらい、初期の佐野元春は売れなかったのですね。

 

【浸透期】  1982~1984年

「彼女はデリケート」「Sugartime」「Happy Man」「スターダスト・キッズ」

「グッドバイからはじめよう」「TONIGHT」 他

この頃になるとアルバムチャートではオリコンの比較的上位にはいってきたりと、ファン層を確実に広げている感はあり、シングルの方もオリコンチャートに入ってくることも増えてきます。10thシングル「グッドバイからはじめよう」では初めてバラード曲を出してきたのですが、当時のラジオのインタビューで、ビートルズも10枚目でバラードを出してきたので、自分もそうしたかったと言ったのが、なぜか印象に残っています。

 

【成果期】  1985~1986年

「Young Bloods」「リアルな現実 本気の現実」「CHRISMAS TIME IN BLUE」

「STARNGE DAYS」「SEASON IN THE SUN」「WILD HEARTS」

そしてようやくシングルのヒットに結び付いたのが「Young Bloods」で、時間をかけて名前が浸透してきたところに、国際青少年年のテーマソングとしてNHKを中心に何回も流れたことで、コアな音楽ファンからライト層にも広がっていったということでしょう。作品的にも一般受けしそうなアップテンポのかっこいい作品で、初のオリコントップ10入りを果たしました。次の「リアルな現実 本気の現実」は売れた次の曲なのでかなり攻めていて、さすがにこれは実績的にはいまいちでしたが、その次「CHRISMAS TIME IN BLUE」からはトップ10に4曲連続で入ってくるようになり、シングルでもチャート上位を賑わす存在にはなってきました。

 

【挑戦期】  1987~1988年

「99 BLUES」「インディビジュアリスト」「警告どおり計画どおり」他

12インチシングルが2曲、続いてデビュー曲のライブ盤、さらに社会的メッセージを前面に打ち出したチェルノブイリの原発事故への怒りを歌った「警告どおり計画どおり」と、挑戦的あるいは実験的な作品が続いたのがこの時期で、どちらかというとセールス度外視といった印象はありました。

 

【潜伏期】  1989~1991年

「約束の橋」「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」「シティチャイルド」

「雪」「ジャスミンガール」「ぼくは大人になった」

いろいろなタイプの作品をシングルとして送り込んでいきましたが、セールス的には目立った動きのなかったのがこの時期。トップ10入りはなく、トップ20入りが2曲。枚数的にはパッとせず、素人目には難しい曲ばかりで責めて来るなというところはありましたね。

 

【再浸透期】 1992年

「また明日…」「誰かが君のドアを叩いている」「約束の橋」「彼女の隣人」

久しぶりに「誰かが君のドアを叩いている」がトップ10入りを果たのすと、再度のリリースとなった「約束の橋」がそれまでのキャリアハイを大幅に更新するヒットで、若い世代にもアピールすることになります。それにしても最初に出したときはあまり売れなかったのに、牧瀬里穂と稲垣吾郎と若手人気俳優主演のドラマの主題歌に起用された途端の大ヒット。世の中の人々は現金なものですが、それほどこの時代のトレビドラマの影響力は大きかったということになります。

 

【成熟期】 1995年~

「十代の潜水生活」「楽しい時」「ヤァ! ソウルボーイ」「INNOCENT」他

約3年間シングルのリリースが止まった後の「十代の潜水生活」以降は、マイペースな展開になっていきます。シングルについてはチャート上位からは遠ざかっていきますが、音楽界の重鎮として存在感を示しています。

 

 

■売上枚数 ベスト5   

1 約束の橋(1992) 70.3万枚

2 Young Bloods 17.8万枚

3 CHRISTMAS TIME IN BLUE 13.4万枚

4 STRANGE DAYS 8.9万枚

5 誰かが君のドアを叩いている 8.3万枚

2回目の「約束の橋」が圧倒的で、10万枚以上がその他に2曲。シングルではわりと苦戦していたようには思います。

 

■最高順位 

4位 … 約束の橋(1992)  

5位 …  STRANGE DAYS

売上枚数が1位の「約束の橋」による4位が最高で、その次が5位。トップ10入りが全部で8曲ありますが、うち6曲が7~9位という結果です。

 

■代表曲

1 SOMEDAY

2 アンジェリーナ、ガラスのジェネレーション、Young Bloods、約束の橋 

やはり「SOMEDAY」になるような気がします。次点としては、初期の印象的な曲か、セールス的に健闘した2曲か、そんなところではないでしょうか。

 

 

■好きな曲 ベスト5

1 SOMEDAY

2 グッドバイからはじめよう

3 彼女はデリケート

4 Young Bloods

5 ガラスのジェネレーション 

私の中では1位、2位は鉄板。3曲目は迷いましたが、当時の音楽としてはめちゃくちゃかっこいい「彼女はデリケート」を選択しました。どうしても初期の曲に惹かれてしまいます。

 

 

確かに「Young Bloods」「約束の橋」は売れていますし、一定年齢の若い世代にはこれらの印象が強いかもしれませんが、この2曲が一番の代表曲かといわれると「否」になってしまうのですよね。

結論:むしろ売れなかった時代の曲に代表曲がありそう