第56回 代表曲と売れた曲は一致するのか
菊池桃子
いわゆるアイドル当たり年といわれる1982年組と1985年組の間に挟まれた1984年にデビュー、82年組と85年組の間をつなぐアイドルとして、デビュー年度から活躍しました。オリコン1位を連続して獲得するなど、間違いなくトップアイドルの1人ではあったのですが、紅白歌合戦には縁がなく、その点では当時の競争の激しさを物語るような結果となってしまいました。シングルA面はすべて林哲司作曲ということですが、作詞者が時期によってきれいに分かれているのが興味深いです。またアーティテスト志向に走ったラ・ムー時代のやや迷走感も、今となっては懐かしい限りです。
【作詞秋元康期】 1984~1985年
「青春のいじわる」「SUMMER EYES」「雪にかいたLOVE LETTER」
「卒業-GRADUATION-」「BOYのテーマ」
デビューから5曲連続して作詞を担当したのが秋元康。歌手デビューの前から映画「パンツの穴」に出演したり、自身の名前がそのまま雑誌名になった「Momoco」のイメージガールになったりと、知名度を広げていっている状態でしたので、最初の曲から10万枚以上を売上げる順調なスタート。2曲目「SUMMER EYES」で早くもトップ10入り、3曲目「雪にかいたLOVE LETTER」がロングヒットで一気にトップアイドルへと、まさにホップ・ステップ・ジャンプで急上昇でした。翌年は同名タイトルの競合で話題となる中「卒業」で初の1位を獲得。次の「BOYのテーマ」が自身出演の映画の主題歌と、話題にもことかかない秋元康5連発でした。
【作詞康珍化期】 1985年
「もう逢えないかもしれない」
秋元康との関係がひとまず終わり、一曲康珍化の作詞で「もう逢えないかもしれない」が6thシングルとして選ばれます。この作品の切なげな失恋ソングが、1つの菊池桃子の型としてはまったのか、同タイプの作品が3曲続いていくことになります。
【作詞有川正沙子期】 1986年
「Broken Sunset」「夏色片想い」
康珍化の次を受けたのが有川正沙子で、2曲続けての起用となります。失恋ソング、片想いソングということで、いずれも切なげなメロディーの作品ですが、この雰囲気が林哲司のメロディーと菊池桃子のボーカルにマッチしていて、このあたりの作品が一番菊池桃子にフィットしていたように個人的には感じています。出す曲出す曲オリコン1位という時期で、売上的にも20万枚以上は必ず突破するという安定した時期でした。
【作詞売野雅勇期】 1986~1987年
「Say Yes!」「アイドルを探せ!」「Nile in Blue」「ガラスの草原」
そろそろマイナーチェンジして、ファンへも刺激を与えようということかどうかは知りませんが、当時売れっ子の売野雅勇を作詞家に起用し、ソロ歌手としての最後の時期を託したことになりました。アイドルとしての人気にやや陰りが見え始めたころで、作品的にもいろいろ変化をつけていこうとしたところがうかがえ、「Say Yes!」はそれまでに歌うことのなかったような明るい応援歌になっています。映画主題歌「アイドルを探せ」を挟んで、「Nile in Blue」「ガラスの草原」とそれぞれ曲調を変えてきましたが、このあたりから売上、順位の低下も顕著になり、危険を察知した陣営は新たな手を打って出ることになるのです。
【ラ・ムー時代】 1988~1989年
「愛は心の仕事です」「少年は天使を殺す」「TOKYO野蛮人」「青山Killer物語」
それまでの林哲司から和泉常寛がシングル全曲を作曲。アーティスト志向からバンド形態での再スタートとなりましたが、結局は菊池桃子のウィスパーボイス。黒人系のメンバーをバックに従えて歌う姿は、正直なところしっくりこなかったです。それがゆえか、セールスもシングルを出すたびに落としていき、結局4曲で終了。ある時期までどこか菊池桃子の黒歴史的な扱いをされていたほどでした。それでも近年再評価されてきているようなところもあるようですが…。
■売上枚数 ベスト5
1 卒業-GRADUATION- 39.4万枚
2 雪にかいたLOVE LETTER 34.8万枚
3 BOYのテーマ 34.1万枚
4 もう逢えないかもしれない 25.4万枚
5 夏色片想い 24.7万枚
4thシングル「卒業-GRADUATION-」が最大の売上で、その前後の3rd「雪にかいたLOVE LETTER」、5th「BOYのテーマ」がそれぞれ2番目、3番目ということで、ピーク時期が分かりやすい売上グラフになっています。凸凹が緩やかで、基本的には4thを頂点とする綺麗な山型を形成。
■最高順位
1位 … 卒業-GRADUATION-、BOYのテーマ、
もう逢えないかもしれない、Broken Sunset、夏色片想い、
Say Yes!、アイドルを探せ
7曲連続の7曲でトップ1を獲得。特に1986年はおニャン子勢が席巻している中、うまく合間を縫って1位を獲得したという印象です。
■代表曲
1 卒業-GRADUATION-
2 雪にかいたLOVE LETTER
3 もう逢えないかもしれない
Say Yes!
「卒業-GRADUATION-」は鉄板でしょうか。次点が少し離れて、菊池桃子の認知度が広がった「雪にかいたLOVE LETTER」になりそうです。3位になると、いろいろと意見も分かれそう。
■好きな曲 ベスト5
1 SUMMER EYES
2 アイドルを探せ
3 BROKEN SUNSET
4 青春のいじわる
5 青山Killer物語
歌詞がいろいろなことを想像させてくれる「SUMMER EYES」が好きで、夏の避暑地のコテージの屋根にまぶしい太陽がキラキラと反射するような映像がパッと浮かんでくるのですよね。ラ・ムーの中では「青山Killer物語」が一番菊池桃子らしくて気に入ってます。
売上のピークがはっきりしていて、その時代の歌がやはり印象が強いのではないでしょうか。「卒業-GRADUATION-」は斉藤由貴「卒業」に比べると取り上げられ方は小さいですが、それでも菊池桃子の中では一番認知度が高いようにも思いますし。
結論:代表曲と売れた曲は一致するといえるでしょう