第52回 代表曲と売れた曲は一致するのか
河合奈保子
80年代前半から半ばにかけてトップアイドルの一人として君臨した河合奈保子。その作品と売上推移を見ながら、代表曲と売上の相関を見ていきます。
【初々しさを前面に打ち出した初期作品群】 1980~1981年
「大きな森の小さなお家」「ヤング・ボーイ」「愛してます」「17才」
デビュー曲は36位とパッとしませんでしたが、2ndシングル「ヤング・ボーイ」で売上を伸ばして、3rd、4thと売上や順位をキープ。さらなる上昇に向けて力を蓄えているようなそんな時期でした。この頃の作品は初々しく可愛らしい、いかにも新人アイドルといったような作品が並んでいます。
【河合奈保子の色合いを明確にした馬飼野康二作品群】 1981~1982年
「スマイル・フォー・ミー」「ムーンライト・キッス」「ラブレター」
「愛をください」「夏のヒロイン」
そして5th「スマイル・フォー・ミー」でついにブレイク。この曲ははきはきと明るい彼女のキャラクターに見事にはまり、初のトップ10入りも果たしました。以後、ところどころでこの手の無条件に明るいポップな作品を挟んでいくようになりますが、その意味で一つ彼女の方向性を形づくった作品だったといえそうです。そして「スマイル・フォー・ミー」の作曲者馬飼野康二をしばらく起用することが多くなり、この時期の5曲中「愛をください」以外の4曲が馬飼野康二の作曲した作品となります。
【少し大人へとリアルな恋愛を歌ったアーティスト作品群】 1982~1983年
「けんかをやめて」「Invitation」「ストロー・タッチの恋」
10thシングルとなった「けんかをやめて」が一つの転換点となります。作家に竹内まりやを迎え、「けんかをやめて」「Invitation」と自分を挟んだ三角関係とか、初めてボーイフレンドの部屋を訪れた気持ちとか、それまではどこか空想の中の恋を歌う作品だったのが、リアリティのある作品にかわっていきます。「ストロー・タッチの恋」の来生たかおと併せて、自らもアーティストとして活躍する作家の作品との取り組みを始めた時期でもあります。
【新しい路線に踏み出した筒美京平作品群】 1983年
「エスカレーション」「UNバランス」
ここでまた新しい路線に踏み出したのが13thの「エスカレーション」で、今までの作品よりもスリリング曲で大人っぽく、それまでにない感じにオッと思わせてくれました。続く「UNバランス」も同じ路線の作品で、困ったときの筒美京平という感じで、2曲を任せられ、結果もきちんと残しました。
【バラエティに富んだ続アーティスト作品群】 1983~1984年
「疑問符」「微風のメロディー」「コントロール」
筒美京平に新しい面を引き出してもらったあとは、再びアーティストたちの作品を歌うことになります。来生たかお、尾崎亜美、八神純子と作品ごとに作曲者を変え、重いバラード系、ほのぼのファンタジー系、スリリングな恋愛心理系と、それぞれがまったく違ったタイプの作品ということで、磨きがかかった歌唱力が生かされていくことになりました。
【方向性を探りながらの続筒美京平作品群】 1984~1985年
「唇のプライバシー」「北駅のソリチュード」「ジェラス・トレイン」
アーティスト勢の作品のあとは、こちらもまたまた筒美京平作品を3曲続けて投入。「エスカレーション」「UNバランス」「コントロール」の流れにある「唇のプライバシー」のあとはウィンターソング「北駅のソリチュード」、そして追い立てられるような緊迫感のある「ジェラス・トレイン」と、少しずつ違う曲調のものを作り出すところはさすが大先生。ただ「ジェラス・トレイン」の売上はデビュー曲以来の10万枚切れとなり、やや危機感を覚え始めたのもこの時期ではないでしょうか。
【アイドルとして集大成の林哲司作品群】 1985~1986年
「デビュー」「ラヴェンダー・リップス」「THROUGH THE WINDOW」「涙のハリウッド」「刹那の夏」
そん危機感を払拭し、初めてのオリコン1位を獲得したのが「デビュー〜Fly Me To Love」でした。明るく伸びやかな楽曲は、河合奈保子の原点に返ったようでしたが、それを作曲したのが当時ヒット曲連発していた林哲司。さすがきちんと売れ線のメロディーを作ってきます。このあと「ラヴェンダー・リップス」「涙のハリウッド」と3曲の作曲を担当。この「涙のハリウッド」も「デビュー」に似た位置づけの作品で、このあたりがまさにアイドル河合奈保子の集大成といったところではなかったでしょうか。
【シンガーライターソングライターとしての作品群】 1986~1994年
「ハーフムーン・セレナーデ」「十六夜物語」「悲しい人」「Harbour Light Memories」 など
そして迎えた26th「ハーフムーン・セレナーデ」でとうとう自身作曲の作品を投入。まさにアイドルからシンガーソングライター(作詞はしていませんが…)へと転換を図ったわけです。ただ自作曲2曲目「十六夜物語」を最後に、シングルチャートトップ10からは遠ざかっていくことになり、このあたりはアイドルの宿命ということでしょう。それでも「ハーフムーン・セレナーデ」「十六夜物語」は聴けば聴くほど味わいが深まるいい曲で、彼女が引退した今となっては、その才能を披露する機会がなくなったことがとても残念ではあります。
■売上枚数 ベスト5
1 エスカレーション 34.9万枚
2 スマイル・フォー・ミー 26.0万枚
3 夏のヒロイン 21.5万枚
けんかをやめて 21.5万枚
5 ラブレター 21.2万枚
1つの転換点となった「エスカレーション」が1位で、確かにそれまでにはなかったタイプの作品で、インパクトはありました。2位はブレイクした「スマイル・フォー・ミー」、3位は「夏のヒロイン」「けんかをやめて」が同枚数ということで、1981~1983年が河合奈保子のピークだったといえそうです。
■最高順位
1位 … デビュー〜Fly Me To Love
3位 … エスカレーション
4位 … スマイル・フォー・ミー、 UNバランス、疑問符、唇のプライバシー
基本的にはトップ10の中位、4~7位に収まることが多かった中で、唯一の1位が「デビュー〜Fly Me To Love」で、2位はなくて3位が「エスカレーション」の1曲。発売するタイミングもあったのでしょうが、必ずしも売上が多い作品が順位も高いというばかりではないようです。
■代表曲
1 けんかをやめて
2 スマイル・フォー・ミー
3 エスカレーション
4 ハーフムーン・セレナーデ
何を差し置いてもという一曲はないかもしれませんが、その中でおそらく一番後の世代にも知られているのが「けんかをやめて」でしょうか。この歌詞の内容は今でも時々議論の対象になっているようですし。そして次がブレイクきっかけの「スマイル・フォー・ミー」、続いて一番売れた「エスカレーション」、初の自作曲「ハーフムーン・セレナーデ」といった感じかなと思ってます。
■好きな曲 ベスト5
1 コントロール
2 デビュー〜Fly Me To Love
3 涙のハリウッド
4 ハーフムーン・セレナーデ
5 十六夜物語
私の好みはこんな感じ。八神純子の作った「コントロール」が大好きで、♪コントロールされて…コントロールやめて とたたみかけるようなサビが特に気に入ってます。また明るくてキャッチー、彼女のキャラクターにマッチした「デビュー」「涙のハリウッド」や自作の「ハーフムーン・セレナーデ」「十六夜物語」もお気に入りです。これら以外にも「UNバランス」「微風のメロディー」「唇のプライバシー」あたりも好きな曲です。
唯一の1位獲得曲「デビュー〜Fly Me To Love」は必ずしも1,2を争う代表曲ではないでしょうが、売上ベースでみると、代表曲で上げた曲の多くは上位に入ってきてはいます。ただ一番知名度があると思われる「けんかをやめて」は特別に売れたという感じでもないのですよね。
結論:代表曲と売上上位の間には若干のずれはあって、ぴたりと一致する感じではない