第13回 代表曲と売れた曲は一致するのか
稲垣潤一
独特の声色で他のシンガーでは出せない味わいを出し続けたボーカリスト。80年代シティポップの中心的存在として存在感を示し続けました。
【雨の似合うクールな都会派路線】 1982~1983年
「雨のリグレット」「246:3AM」「ドラマティック・レイン」「エスケイプ」
個性的なハイトーンボイスで鮮烈に登場、3枚目の「ドラマティック・レイン」が大ヒットし、一躍人気歌手に。当時あまりいないタイプで都会的でクールな作品で、特に「雨のリグレット」「ドラマティック・レイン」と雨の印象が強いデビュー当時でした。「ドラマティック・レイン」を最初に聴いたときは、個人的には結構衝撃的でした。
【リゾート&タウンのシティポップ路線】 1983~1988年
「夏のクラクション」「ロング・バージョン」「オーシャン・ブルー」
「ブルージン・ピエロ」「バチェラー・ガール」「1ダースの言い訳」
「思い出のビーチクラブ」「君のためにバラードを」「サザンクロス」
「1・2・3」
チャート的には20~30位ぐらいのところで、そこそこという状況が続く中、「夏のクラクション」「オーシャン・ブルー」「思い出のビーチクラブ」「サザンクロス」と定期的に海辺の歌を発売し、海辺で聴くBGM的な聴き心地の良いナンバーが続きました。他方で海の曲以外は、都会での恋愛を歌うものが多く、当時音楽界を席巻していたシティポップの中心アーティストとして存在感を拡大していきます。
【耳障りの良い爽やか路線】 1989~1990年
「セブンティ・カラーズ・ガール」「君は知らない」「1969の片想い」
「SHINE ON ME」「心からオネスティー」
それまでのイメージよりポップでキャッチーな作品を続けて出していた頃。「セブンティ・カラーズ・ガール」は化粧品のCMソングにも起用されましたし、「1969の片想い」「SHINE ON ME」「心からオネスティー」の3曲はいずれも爽やかながら哀愁のあるラブソング。ただセールス的にはあまり伸びない時期でもありました。
【じっくり聴かせるムード路線】 1990~1993年
「メリークリスマスが言えない」「セカンド・キス」「さらば愛しき人よ」「あなたがすべて」
「世界でたったひとりの君に」「クリスマスキャロルの頃には」「僕ならばここにいる」
「マラソンレース」「キスなら後にして」
クリスマス関連の2曲がトップ10入りしていますが、特に主題歌となったドラマとの相乗効果で、「クリスマスキャロルの頃には」が自身初の1位を獲得し、ミリオンセラーも達成。稲垣潤一の歌詞人生の中で、セールス的には最も好調な時期で、かつてのシティポップのイメージとは少し離れて、じっくりと歌い上げる作品が多かったように思います。ただこのあと、売上面で急降下していきます。
【過去の栄光路線】 1994年~
「メリークリスマスが言えない」「雨の朝と風の夜に」「小さな奇蹟」
「メリークリスマスが言えない」 他
繰り返し発売された「メリークリスマスが言えない」の存在が、すでにこの時期の稲垣潤一の立場を表しているようでせつなくなります。ミリオン景気もなくなり、次第にチャートの下位に押しやられ、新曲の発売もトビトビに。
■売上枚数 ベスト5
1 クリスマスキャロルの頃には 140.6万枚
2 ドラマティック・レイン 31.4万枚
3 僕ならばここにいる 30.8万枚
4 メリークリスマスが言えない 14.1万枚
5 エスケイプ 10.8万枚
「クリスマスキャロルの頃には」が圧倒的な売上を上げていますが、それに続くのがそれより10年も前に発売された「ドラマティック・レイン」。そういった部分では息の長い活躍をしてきたということはうかがえます。安定していつも売上を残していくというよりは、時折突発的に目立った売上を残す作品に遭遇するといったアーティストではあります。
■最高順位
1位 … クリスマスキャロルの頃には
4位 … 僕ならばここにいる
8位 … ドラマティック・レイン
トップ10入りした作品は全部で4曲と、意外に少なめ。その中でも1位を獲得したのは1曲のみですが、その1曲が爆発的なセールスを残したことが、稲垣潤一のアーティストとしての存在感を高めたように思います。もしこの曲がなかったら、大ヒット曲はないけれど、80年代のシティポップをけん引したアーティストの一人といったそこそこの人ぐらいで終わっていたように思います。
■代表曲
1 クリスマスキャロルの頃には
2 ドラマティック・レイン
3 夏のクラクション
4 ロング・バージョン、バチェラー・ガール、エスケイプ、メリークリスマスが言えない
1,2に関してはセールス通りでしょう。3位は微妙ですが、いろいろ調べて、「夏のクラクション」が多数決になりそう。
■好きな曲 ベスト5
1 エスケイプ
2 ドラマティック・レイン
3 1986の片想い
4 SHINE ON ME
5 雨のリグレット
個人的に好きな時期はかなり偏っていて、まずデビュー直後の1位、2位、5位曲、そして1989~1990年頃の3位、4位、次点の「心からオネスティー」といったところ。時期によって比較的曲調が分かりやすく続いているので、好みの作品はある特定の時期に集中して歌われたというイメージです。知名度の高いクリスマス2曲はも私の中ではいまいち。
圧倒的実績を誇る「クリスマスキャロルの頃には」とブレイクのきっかけとなった「ドラマティック・レイン」実績でも目立つこの2曲が代表曲で問題ないでしょう。
結論:売れた曲と代表曲はほぼ一致している