第9回 代表曲と売れた曲は一致するのか

 

井上陽水

 

とにかく頭の中がどうなっているのだろうと思わせる個性的な歌詞で魅了し続けるフォーク界の大御所ですが、その時代その時代で実にいろいろなことにもトライし、長年にわたり一線で活躍し続けてきたというのは凄いと思います。

 

【フォーク界をけん引するスター誕生】  1972~1976年

「人生が二度あれば」「傘がない」「夢の中へ」「心もよう」「闇夜の国から」

「夕立」「御免」「青空、ひとりきり」「Good,Good-bye」

勢いという点では若かったこの頃がピークだったでしょう。シングルも売れましたが、それ以上に1973年末に発売したアルバム「氷の世界」が記録的ロングヒット、吉田拓郎と井上陽水がフォーク界の2大巨頭的な存在としてシーンを引っ張っていきました。「傘がない」「夢の中へ」「心もよう」と初期の代表曲的存在が発売され、特に歌詞における独特の世界はこの頃にすでに出来上がっていた感があります。このころは日常の中から題材を選び、割と身近なテーマが多く描かれ、親近感の持てる作品が多かったようにも思います。

 

【いろいろあって停滞期へ】  1977~1980年

「夏願望」「青い闇の警告」「ミスコンテスト」「なぜか上海」

「BRIGHT EYES」「クレイジーラブ」

ところが、絶好調だったセールスがこの頃には急降下してしまいます。フォーク自体の人気の低下に加え、自身のスキャンダルが大きく影響したのは間違いないでしょう。出したシングルもまったく売れず、トップ100にもはいらないということもしばしばでした。当時小学生の私にはまったく触れることのないアーティストという感じでしたね。

 

【そして復活】  1981~1986年

「ジェラシー」「風のエレジー」「リバーサイドホテル」「とまどうペリカン」

「愛されてばかりいると」「誘惑」「悲しき恋人」「いっそセレナーデ」「新しいラプソディー」

そんな中で「ジェラシー」が久しぶりにヒットし売上が20万枚越え。再びヒット戦線に戻ってきました。この頃の曲では「リバーサイドホテル」がありますが、実は当初は最高54位とあまり売れなかったのですよね。その後1988年にテレビドラマの主題歌として火がつき、6年以上かけて11位にまで上がったという、特異な動きを見せることになりました。そのあと「いっそセレナーデ」が9年ぶりにシングルチャートのトップ10入りを果たすことになります。

 

【次なる方向性の模索期】  1987~1989年

「WHY」「今夜、私に」「夢寝見」「最後のニュース」

この頃になると社会性を作品のテーマに含ませるようなことも出てきて、年相応の方向性を探っているような印象はありました。いわゆる売れ線を狙って作品を作っているというよりは、こんな井上陽水はどうだった挑戦状をたたきつけているような、そんな感じさえ受け、その分ヒットには恵まれない時期でした。

 

【タイアップ曲で大ヒット】  1990~1993年

「少年時代」「Tokyo」「結詞」「5月の別れ」

「Make-up Shadow」「カナディアン アコーディオン」

そろそろ井上陽水も限界かと思いたくなりそうなところで、「少年時代」が発売され、今までの自身の最高売上を大きく更新、さらにその3年後にも「Make-up Shadow」が大ヒットと、タイアップの効果もあって、セールス面で大成功をおさめます。どちらの曲もそれまでの陽水の作品とはちょっと違った感じで、引き出多さを感じさせられました。

 

【好きなことを楽しんでいる重鎮に】 1994年~

「移動電話」「嘘つきダイヤモンド」「コーヒー・ルンバ」

「花の首飾り」「飾りじゃないのよ涙は」

この頃になるとセルフも含むカバー曲にたびたび挑戦するなど、井上陽水の凄さをアピールするというよりは、好きなことを楽しんでやっている感がありありで、その中でも「コーヒー・ルンバ」「花の首飾り」がそこそこのセールスを残したというのが凄いところです。井上陽水に対して求めているものは何かということを考えた時に、この結果は興味深いです。ただその後はヒットチャートからは離れていくことになり、シングルチャートの中では、役割を終えたというところでしょうか。

 

 

■売上枚数 ベスト5   

1 少年時代 85.3万枚

2 Make-up Shadow 81.7万枚

3 心もよう 42.3万枚

4 いっそセレナーデ 35.3万枚

5 青空、ひとりきり 25.5万枚

1970年代から第一線で活躍し続けてきた井上陽水ですが、セールス面では1990年代の2曲が圧倒的優位になっています。もともとアルバムの方に重きを置かれるアーティストだったのですが、うまく時代の流れに乗った2曲が80万枚を超える大ヒットとなりました。それでも3番目の曲が1970年代、4番目の曲が1980年代と、それぞれの時代で大ヒットを生み出しているところはさすがです。

 

■最高順位 

2位 … Make-up Shadow 

4位 … いっそセレナーデ、少年時代

7位 … 心もよう

8位 … 青空、ひとりきり

瞬間風速的に最も高みまでいったのが「Make-up Shadow」の2位ということで、シングルでは1位を獲得することは叶いませんでした。トップ10入りも5曲ということで、そんなに多いわけではありません。出す曲出す曲がヒットするというアーティストではなかったということですね。

 

■代表曲

1  少年時代

2  リバーサイドホテル

3 夢の中へ

4 心もよう、いっそセレナーデ、Make-up Shadow

一番はやはり「少年時代」になるのでしょうか。今でもいろいろなシーンで使われることが多く、幅広い層への認知度が高いように思われます。そしてテレビドラマの主題歌として発売後時間を経て脚光を浴びた「リバーサイドホテル」の認知度が高いでしょう。そして初期の作品でのちにカバーもされている「夢の中へ」、こんな3曲になりそう。

 

 

■好きな曲 ベスト5

1  Make-up Shadow

2 心もよう

3  新しいラプソディー

4  傘がない

5 夢の中へ

 

陽水らしさからはちょっと離れた感じですが、私個人としては「Make-up Shadow」が大好きで、昔はカラオケでもよく歌わせていただきました。もちろん初期の名作群も捨てがたいものがありますし、「新しいラプソディー」の心地よさも気に入ってます。

 

 

名前だけで売るというより、曲の良し悪しで売れる売れないが決まってくるタイプのアーティスト。ということは売れている曲は一定以上の支持がある曲ということになるのですが、それでも「少年時代」の実績と存在は目立ちます。

結論:必ずしも売上順というわけではないが、基本的には枚数的に売れている曲が代表的な作品にはなっている