第6回 代表曲と売れた曲は一致するのか

 

杏里

ヒット曲が出るまでは結構長く苦労しましたが、独特の存在感で80年代から90年代初頭までを中心に活躍したシンガーです。

 

【デビューしたもののヒットに恵まれず】   1978年~1983年

「オリビアを聴きながら」「地中海ドリーム」「コットン気分」「思いきりアメリカン」ほか

1978年に「オリビアを聴きながら」でデビュー。新人の売り出しレースの中で、アイドルよりなのか、ニューミュージックよりなのか、立ち位置を模索しながらの期間が長く続きました。当時の見た目のイメージとしては、おしゃれな異国リゾート風のお姉さんといった感じで、アイドルたちとは一線を画していましたが、かといって曲は自作しないので、どこを狙えば売れるのか、なかなか難しかったのではないでしょうか。曲の雰囲気としては、やはり海外的なイメージを狙っていたようなラインアップになっています。ただ露出はそこそこあって、名前は通っていた印象はあります。とはいえ412th「Lady Sunshine」までの12曲の内、トップ100入りが3曲のみ、それもデビュー曲で最高65位ですから、このあたりであきらめてしまっても、全然おかしくなかったのですけれど、転機が来ます。

 

【タイアップと作品に恵まれついにブレイク】  1983年~1984年

「CAT‘S EYE」「悲しみが止まらない」「気ままにREFLECTION」

主題歌として起用されたアニメの人気とともに、杏里のレコード「CAT‘S EYE」も爆発的ヒットとなり、自身初めてのトップ10どころか、オリコン1位をも獲得。さて次の曲は二番煎じ的な路線を狙っていくかと思いきや、まったくタイプの異なる曲「悲しみが止まらない」で勝負をかけると、これがまたまたヒット。さらにその次「気ままにREFLECTION」もCMに使われて3曲続けてのトップ10入りということで、杏里のキャリアの中で、作品とタイアップに恵まれて、最も勢いのある時代になりました。

 

【勢いも落ち着き再び停滞】  1985年~1986年

「16BEAT」「オリエンタル・ローズ」「モーニング・スコール」

「TROUBLE IN PARADISE」

トップ10入りのヒットも3曲で途切れ、チャート的には再び30位台、50位台と低迷。「16BEAT」では初めて杏里自身が作曲を手掛けるものの結果を残せず、再び次のシングルから作家による作品に後戻り。と同時に、曲の路線も元の路線に戻ってしまいました。

 

【自作曲に切り替えチャート的にも安定】  1987年~1992年

「HAPPYENDでふられたい」「SURF&TEARS」「SUMMER CANDLES」

「スノーフレイクの街角」「Sweet Emotion」

「Back to the BASIC」「嘘ならやさしく」「ラスト ラブ」

「LANI -Heavenly Garden-」「ドルフィン・リング」

もう一度「HAPPYENDでふられたい」で自作曲に挑みますが、これがオリコン17位と一定の結果を残すと、以後完全に自身作曲の曲にシングルを切り替えていき、それが奏功して、セールス面でも安定していきます。出せばだいだい20位以内には入ってくるという時期が続き、アーティストとしての杏里の実績もイメージも、ようやくここにきて安定したという感じでした。

 

【またまた低迷ももうひと花】  1994~1998年

「ALL OF YOU」「SHERE 瞳の中のヒーロー」

「Legend of Love」「あの夏に戻りたい」

「夏の月」ほか

どのアーティストにとっても、ピークを過ぎて人気が下降していく時期はあるもので、杏里にとってもその時期が来たというのが1994年の「ALL OF YOU」あたりからでしょう。CDバカ売れの時代の中で伸び悩みが続きますが、もうひと花1998年発売の「夏の月」が久しぶりに10万枚を超える売上を残しました。しかしこれを最後に、ヒットチャートからは遠ざかっていくのでした。

 

 

■売上枚数 ベスト5   

1 CAT‘S EYE 82.0万枚

2 悲しみがとまらない 42.3万枚

3 ドルフィン・リング 20.7万枚

4 気ままにREFLECTION 17.1万枚

5 夏の月 13.4万枚

 

1位、2位は一番勢いがあった時の曲で、そうだろうなという印象ですが、この売上絶好調期の3枚の間に「ドルフィン・リング」が挟まる健闘。さらにそれよりもさらに後でリリースされた「夏の月」が意外にもトップ5に食い込んでいるのは立派です。

 

■最高順位 

1位 … CAT‘S EYE

4位 … 悲しみがとまらない

7位 … 気ままにREFLECTION

9位 … ドルフィン・リング

1位獲得曲は1曲のみで、次が4位、トップ10入りは4曲ということで、出せばどんな曲でも上位に入るというアーティストパワーで売れるというより、やはり楽曲の力で売ったというアーティストなのでしょう。そういう意味では4曲もトップ10入りさせたということは、偉そうに言うと、たいしたものです。

 

■代表曲

1 オリビアを聴きながら

  CAT‘S EYE

3 悲しみがとまらない

4 SUMMER CANDLES

5 スノーフレイクの街角、ドルフィン・リング

 

 私のイメージではこんな感じですが、1位は二択で迷いそうなところ。それはともかく、特筆すべきは「オリビアを聴きながら」で、まったく当時は売れなかったデビュー曲が、別の曲のヒットによって後に見直され、名曲として聴かれ継がれていくようになるという珍しいパターン(徳永英明の「レイニー・ブルー」なんかもこの類)。杏里と言えば「オリビアを聴きながら」と答える人も相当数いるはず。必ずしも代表曲=売れた曲ではないという典型的な例でしょう。

 

■好きな曲 ベスト5

1 悲しみがとまらない

2 思いきりアメリカン

3 コットン気分

4 SUMMER CANDLES

5 CAT‘S EYE

 

1位は曲だけでなく歌詞も分かりやすくてかっこつけていない感じが好き。「CAT‘S EYE」の次にこれを持ってきたかと感動したことを覚えています。2位、3位は杏里の中ではポップでキャッチーなメロディーが気に入っていて、発売時期がもっとあとだと、もっと売れていたでしょう。

 

大ブレイクに導いた大ヒット曲「CAT‘S EYE」ももちろん代表曲ですが、一方でデビュー当時ほとんど売れなかった「オリビアを聴きながら」もそれと争う一曲になっているというのが特筆もの。代表曲2曲の一方は一番売れた作品だが、もう一曲はほとんど売れていないということで

結論: “一致する”も“一致しない”どちらもあり