楽曲、作詞作曲家とスポットを当ててきましたが、今回からは3つめのシリーズとして、アーティストとそのセールス実績と印象の乖離について特集していこうと思います。取り上げるのは80~90年代に活躍したアーティスト、アイドルが中心になります。2000年代以降は音楽の環境がだいぶ変わり、セールスの数字を比較していくのも難しい時代になっているのがちょっと寂しいです。
****************************************************************************
第1回 代表曲とは売れた曲は一致するのか (このテーマは時によって多少変わります)
浅香唯
アイドル四天王の一人として、1980年代の終盤に活躍したトップアイドルを初回に取り上げます。
稀に見る綺麗な山を作り上げているのがなんといっても特徴です。
【低迷続きによる方向性の模索期】 1985~1986年
「夏少女」「ふたりのMoon Rever」「ヤッパシ…H!」「コンプレックスBANZAI!!」
「10月のクリスマス」
デビュー後4thシングルまではオリコンのトップ100にも入らない低迷ぶり。ようやく5thシングルで88位に登場したものの、普通このあたりであきらめてしまうものです。曲の方もあっちにふらふら、こっちにふらふらと彷徨っている印象で、特に「ヤッパシ…H!」「コンプレックスBANZAI!!」あたりしヤケになっているほど、アイドルとしてはかなりぶっ飛んだ色物曲。いや、作品としては悪くないし、楽しい曲ではあるのですが、本気で売り出そうという気持ちがあったのでしょうか。結局だめで、さらに路線変更を余儀なくされる状況に追い込まれていくのです。
【スケバン刑事連動でステップアップ期】 1987年
「STAR」「瞳にSTORM」「虹のDreamer」
この低迷していた浅香唯を助け、一気に押し上げたのがドラマの「スケバン刑事」の3代目麻宮サキへの抜擢でした。この抜擢はまさに彼女の人生を大きく変えることになったわけです。主演と同時に主題歌として起用されたことで「STAR」がオリコン最高9位にジャンプアップすると、同じく「スケバン刑事」の主題歌「瞳にSTORM」が4位、次の「虹のDreamer」でとうとう1位を獲得。まさに「スケバン刑事」さまさまの時期でした。ただ曲の方はドラマのイメージに合わせた重めのミディアムチューンといった感じで、あまり自由度はなかったようには思います。
【トップアイドルとして人気爆発期】 1988年
「Believe Again」「C-Girl」「セシル」「Melody」
アイドル四天王の一人として数えられて大ブレイクを果たしたのがこの時期です。「スケバン刑事」の縛りが外れると、楽曲の方もこれまでにはなかった雰囲気のものが続々と発表されていきます。ポップな応援歌「Believe Again」、化粧品のイメージソングとなった夏ソング「C-Girl」、しっとりと聴かせる「セシル」、そしてポップ系に戻って「Melody」と、勢いがある人には不思議にいい作品が集まってくるものです。セールス的にも、作品的にも最も充実した時期でした。
【やりたいことをやりたい自己主張期】 1989~1990年
「TRUE LOVE」「NEVERLAND」「恋のロックンロール・サーカス」「DREAM POWER」
「Chance!」「ボーイフレンドをつくろう」「Self Control」
このあたりから自分のやりたいことを主張出来るようになってきたのかもしれません。ある程度名前だけでセールスを確保できるようになってきたのか、万人受けを狙うよりも、好きになってくれる特定のファンに向けた作品を選んでいたような気はします。アイドルアイドルしたものよりも、やはりアーティスト志向があったのかもしれません。実際に「ロック」をやりたといといったような発言もあったとかなかったとか。ただこの女性トップアイドルのアーティスト志向への転換については、菊池桃子しかり、本田美奈子しかり、あまりうまくいったことがないようには思うのですが…(もともとあまり売れなかった渡瀬マキなんかが転換して成功していますが…)。セールス的には徐々に低下していく中で、アイドル歌手としてのピークも限られている、それならばやりたいことをやってしまえ的な感じには思えるのですよネ。シングルチャートの点からすると、「Self Control」からはトップ10を外れていくのです。
【アイドル歌手としての終焉期】 1991年~1993年
「恋のUpside-Down」「愛しい人と眠りたい」「ひとり」
もうトップ10に返り咲くパワーは残っておらず、シングルのリリース間隔も次第に開いていき、22thシングルをもって、いったんリリースは止まってしまいました。
で、ここからが主題となります。
■売上枚数 ベスト5
1 C-Girl 27.8万枚
2 セシル 22.9万枚
3 Melody 21.6万枚
4 Believe Again 17.8万枚
5 TRUE LOVE 17.4万枚
アーティストとしてのピークが非常に分かりやすい売れ方をしています。普通は作品の良しあしやタイアップなんかで多少凸凹があるのですが、10thシングル「C-Girl」をピークに、きれいな山を描いています。ベスト5圏外を見てもその形が崩れているところがまったくないというのは、貴重な存在かもしれません。
■最高順位
1位 … 虹のDreamer、C-Girl、セシル、TRUE LOVE
2位 … Believe Again、Melody、NEVERLAND
1位が4曲、2位が3曲と立派な成績ですが、これも売上枚数のピークとほぼ連動しています。
■代表曲
1 C-Girl
2 セシル
テレビの昔のアイドル特集なんかで取り上げられるのはほぼ「C-Girl」で、たまに「セシル」が紹介されることもありますが、それ以外はまずピックアップとれることはありません。で、これは売上の成績とも同じなのですよね。そういった意味では非常に分かりやすい「アーティスト」といえるでしょうし、アーティストとしてのピーク時に、後に残るようなインパクトのある作品に巡り合ったという、もしかすると貴重な存在なのかもしれません。
■私の好きな曲 ベスト5
1 セシル
2 Believe Again
3 Melody
4 ヤッパシ…H!
5 コンプレックスBANZAI!!
やっぱり浅香唯という人は1988年がすべてという感じですね。その中でも歌詞に共感できるところが多い「セシル」が好きで、キャッチーなサビの「Believe Again」も捨てがたいといった思いです。
「C-Girl」「セシル」と売れた曲が代表曲、そして売れない時期からピーク期、下降期と綺麗に山を描いている分かりやすい売れ方をしている珍しい存在。
結論:売れた曲と代表曲は完全一致する。