80年代音楽界を彩った作詞家作曲家たち vol.8
秋元康(作詞家)
いわずと知れた現役の大作詞家であり、プロデューサーである数々のアイドルたちの生みの親です。とにかく作詞をした楽曲は恐ろしいほどの数に上ります。その台頭は1980年代。おニャン子クラブの楽曲をはじめとするアイドルはもちろん、当時でいうニューミュージック系から歌謡界の大御所の歌まで、幅広い歌手・アーティテストへ歌詞を提供していました。秋元康の場合、オールタイムで選ぶと、80年代が薄まってしまいますので、80年代限定でのランキングを作ってみました。
秋元康80年代作詞曲・ベスト10
10位 マリーナの夏 渡辺満里奈
(1位 11.4万枚 作詞 秋元康 作曲 岸正之 1987年)★
渡辺満里奈(マリナ)が歌うマリーナの夏という、そのしゃれだけで選びました。渡辺満里奈への作詞はデビュー曲から3曲を行っていて、この曲はその3曲目。そういえばライバル渡辺美奈代についてもデビューから4曲までを担当し、以降は他の作家に任せています。初期の方向付けだけ記したら、あとはご自由にといったところでしょうか。『マリーナの夏』…去年の夏に出会ったあの人との再会を喜ぶ可愛らしい歌です。
9位 デカメロン伝説 少年隊
(2位 27.0万枚 作詞 秋元康 作曲 筒美京平1986年)★
少年隊の2ndシングル。ジャニーズがらみのシングルは割と貴重で、他にはV6の『MUSIC FOR THE PEOPLE』の日本語詞なんかも担当しています。デカメロンなんと当時は知らなかったから、でっかいメロンかなんて思ったりもしましたが、それぐらい歌詞の内容ははじけています。詩の意味よりも、聴いてなんとなく面白い、耳に残る、そんなことを重視した詩のように思えますが、とにかく少年隊の曲の中でも圧倒的に楽しい歌です。
8位 夜明けのMEW 小泉今日子
(2位 15.8万枚 作詞 秋元康 作曲 筒美京平 1986年)★
暑くてなかなか眠れないけだるい夏の夜、別れを迎えようとしている二人、そんな様子が見事に描写された歌詞になっています。そして、そんな中で聞こえてくるMEW(ミュー)という猫の鳴き声。当時クーラーもない安アパートでこの曲を聴きながら、大都会の熱帯夜を過ごしていたことを思い出させます。
7位 不思議な手品のように 新田恵利
(1位 19.4万枚 作詞 秋元康 作曲 後藤次利 1986年)★
偶然に出くわした昔の彼。その瞬間、時は恋人同士の頃に戻ったような気持ちになり、一方でお互いの近況を聞きたくても聞き出せないでいるドキドキ感。そんな状況を手品に例えて、カラッと歌にしてしまっているところに、センスを感じさせます。おニャン子前半の人気の中心にいた新田恵利にぴったりの曲に仕上がっています。
6位 SUMMER EYES 菊池桃子
(7位 19.5万枚 作詞 秋元康 作曲 林哲司 1984年)★
歌詞の解釈がなかなか難しい菊池桃子の2ndシングルです。菊池桃子に対してはデビュー曲から5thまでの作詞を担当していますが、中でもこの曲は、太陽の輝く夏の高原のコテージで起きた何らかの恋のハプニングをあれこれと想像させるものがあって楽しいです。主人公のお嬢様感が菊池桃子と重なって、一つ一つのフレーズが映像としてパッと浮かんでくるのです。
5位 川の流れのように 美空ひばり
(8位 41.8万枚 作詞 秋元康 作曲 見岳章1989年)★
おニャン子やとんねるずなど、ガチャガチャとにぎやかな若者たちを相手に詩を書いていた秋元康でしたが、超大御所への歌詞の提供となったこの曲のヒットにより、一気に評価が上がりました。シンプルな言葉の中に感じる自然の雄大さと悠久の時間。こんな歌詞もかけるのだと大いなるアピールに繋がった、秋元康にとっての大きな一曲になったはずです。
4位 ドラマティック・レイン 稲垣潤一
(8位 31.4万枚 作詞 秋元康 作曲 筒美京平 1982年)★
秋元康の最初のヒット曲といえる作品です。言葉数が少なめな歌詞なのですが、文章が完結せずに、途中でブツ切れになっているような言い回しが、作品自体の独特な雰囲気を作り出しています。冷たい都会の雨の夜、何か訳ありそうな男女の存在が、まるで映画のワンシーンを観ているかのように浮かび上がってきます。
3位 バナナの涙 うしろゆびさされ組
(1位 31.0万枚 作詞 秋元康 作曲 後藤次利 1986年)★
うしろゆびさされ組の歌はどれもコミカルで、女の子と男の子の微妙な恋心をキュートに表現していますが、いずれも秋元康が作詞をしています。中でもこの曲はちょっとエッチなことを想像させる比喩が絶妙で、遊び心が満載。うしろゆびさされ組のコンセプトを決定づけた一曲といっていいでしょう。
2位 なんてったってアイドル 小泉今日子
(1位 28.4万枚 作詞 秋元康 作曲 筒美京平 1985年)★
この曲の前と後ろでアイドルというものの在り方がいっぺんに変わってしまったという意味で、大きな影響力を与えた歌詞だといえるでしょう。この曲以前は、「アイドル」とは他人が与える評価であり、自らをアイドルということは基本的にはあり得ませんでした。あくまでも歌手で、その中で若くてルックスで勝負しているような人たちをアイドルと称していたのです。ところがこの歌をきっかけに、自らをアイドルと称することが普通になり、そしてアイドルが職業になっていったのです。まさに時代を変えた歌だったのです。
1位 青いスタスィオン 河合その子
(1位 34.1万枚 作詞 秋元康 作曲 後藤次利 1986年)★
正統派の上京ソングではあります。都会へ向かう彼、地元に残る私。陽春の太陽の陽射しがこぼれる駅のホームで、夢を持って旅立つ男を見送る女の情景がはっきりと浮かんでくるような歌詞になっています。淡い陽差し、銀のレール、空の青さ、流れる雲、夕陽の中…色彩を想像させる言葉がふんだんに散りばめられていて、この曲も映画を観ているかのような感覚に陥ります。解散後を除くと、おニャン子関連のシングルで最も売れた曲でもあります。
【その他の主な作品】
80年代に絞っても、かなりの作品数になる秋元康作詞曲ですが、ランキング作成のための候補に挙げながら落選した曲をいくつか挙げておきます。
国生さゆり『バレンタインキッス』、河合その子『悲しい夜を止めて』、おニャン子クラブ『セーラー服を脱がさないで』『じゃあね』、長渕剛『孤独なハート』『Good-Bye青春』、うしろゆびさされ組『技ありっ!』『渚の『…』』、矢沢永吉『アリよさらば』、とんねるず『迷惑でしょうが』、本田美奈子『1986年のマリリン』『Oneway generation』、福永恵規『ハートのIgnition』、渡辺美奈代『PINKのCHAO』『TOO ADUKT』、稲垣潤一『1969の片想い』、今井美樹『彼女とTIP ON DUO』