これからは新しい企画で行きたいと思います。
田口俊 (作詞家)
今回からは、80年代に活躍した作詞家・作曲家を取り上げ、その作品についてあーだこーだと語っていきたいと思います。初回は作詞家の田口俊です。1955年生まれで、もともとは歌手としてデビューしていたようですが、1982年から主に作詞家として活動するようになったらしいです。以降は多くのヒット曲に携わり、ナンバー1ヒットも何曲か携わっています。そこで田口俊の作詞曲から、私か好きか嫌いかにヒット度を加味して、勝手にランキングを作ってみました。
特定の人に続けて何曲もということがあまりなくて、いろいろな人に詩を提供しています。コンビとなる作曲家もこれまたいろいろですね。その中では女性アイドルとの仕事が多めといった感じでしょうか。歌詞自体も硬軟幅広く対応していて、そのあたりはプロの作詞家という印象を強く持ちました。
田口俊作詞曲 ベスト10
★=80年代発売
番外 夏のタイムマシーン 小泉今日子
(なぜかアルバム扱いのため順位なし 作詞 田口俊 作曲 筒美京平 1988年) ★
本来なら1位にしたい作品なのですが、当時はやりのマキシシングルのはずが、なぜかミニアルバムとしてチャート上は扱われ、シングルチャートに組み込まれていませんので、番外という形にしました。この曲9分43秒とかなり長いのですが、大人になった主人公がティーンエイジのころの自分にメッセージを送るような歌詞になっていて、読めば読むほどセンチメンタルな気持ちになっていきます。作曲が筒美京平なので、もう間違いなく傑作なのですが、その扱いゆえに日の目を見ることが少なかったのがとても残念。田口俊の中でも最高傑作だと思っています。
10位 風のLONELY WAY 杉山清貴
(1位 18.7万枚 作詞 田口俊 作曲 杉山清貴 1988年) ★
杉山清貴とはわりと組んでいて、その中で最も売れたのがこの曲です。他に『プリズム・レインにつつまれて』(12位 4.9万枚)、『君がここにいてほしい』(12位 4.8万枚)があります。杉山清貴の曲自体がBGM的な役目を負っていたので、この歌詞そのものもそれに応じた聴き心地のよいくせのないラブソングに仕上げています。
9位 君のすべてが悲しい スターダストレビュー
(21位 2.1万枚 作詞 田口俊 作曲 根本要 1990年)
『Lonely Snow Bird』(38位 1.2万枚)、『君のキャトル・ヴァン・ディス』(19位 7.4万枚)、そしてこの曲とスタレビとは3作連続で組んでいました。恋を失った傷心を歌った曲で、当たり前のよくある言葉でその悲しさを端的に表現した歌詞になっています。
8位 Diamondハリケーン 光GENJI
(1位 68.1万枚 作詞 田口俊 作曲 井上ヨシマサ 1988年) ★
田口俊最大のヒット曲ではないでしょうか。男性アイドルへの作詞はわりと少なくて、光GENJIもこの1曲のみ。あまり得手ではなかったのでしょうか。光GENJIの当時のシングルは、どこかに印象的なフレーズを盛り込むのがある意味必須になっていて、パラダイス銀河《♪~しゃかりきコロンブス》なんかはその典型ですが、この曲については《夢はプリズム 愛はダイヤモンド》になるのでしょうか。
7位 エデンの都市 観月ありさ
(5位 18.1万枚 作詞 田口俊 作曲 奥居香 1991年)
観月ありさとはこれ以外に『君が好きだから』(10位 17.6万枚)も作詞しています。観月ありさにとって歌手デビュー2作目になるので、デビュー作とは違った雰囲気ながらも、まだまだ思い切った攻めをするとこではないという感じの詩で、歌い手の憧れとかそれに向かう意志とかが伝わる前向きなものになっています。
6位 木洩れ陽のシーズン 高井麻巳子
(12位 3.9万枚 作詞 田口俊 作曲 岸正之 1988年)★
高井麻巳子のラストシングルで唯一トップ10に届かなかったシングルですが、曲としては出来は悪くありません。過去の恋を振り返って懐かしむ曲ですが、《遅い朝食一人とりながら》《いつでもあの角車止めて 乱暴にチャイム 鳴らした人》《セルフタイマーのレンズに 二人でピースしたテラス》《あの頃定期の苗字かえた そんな遊びさえ懐かしくて》といった具体的な描写が絶妙で、せつなさ、寂しさを増幅させます。
5位 -045- 杉浦幸
(33位 1.4万枚 作詞 田口俊 作曲 佐藤健 1987年) ★
売れなかった曲ですし、短めの歌詞ですが、曲ともマッチしていて私は好きです。タイトルの045とは横浜の市外局番ということで、携帯のない時代ならではのタイトルですね。これも過去の恋を振り返った詩ですが、どうも田口俊は過去を振り返った歌詞を書くのが得意なのかもしれません。
4位 吐息でネット 南野陽子
(1位 30.4万枚 作詞 田口俊 作曲 柴矢俊彦 1988年)★
南野陽子には『パンドラの恋人』(1位 19.9万枚)、『あなたを愛したい』(1位 25.5万枚)とこの曲の3作で作詞を担当しています。どちらかというとマイナーの曲が多い南野陽子の中で、とびきり明るいメジャー曲でかつ最大の売上を残したのが『吐息でネット』です。化粧品CMソングということで縛りも多かったでしょうが、春にふさわしい、そして南野陽子のそれまでとは違った面を表現したプロらしい一曲になっています。
3位 50/50 中山美穂
(2位 21.1万枚 作詞 田口俊 作曲 小室哲哉 1987年) ★
中山美穂へのシングル曲での作詞はこれ1曲のみ。作曲は小室哲哉で、当時の小室哲哉はまだ作詞を手掛けることはなく、歌詞は別の人が作ることがほとんどでした。南国でのアバンチュールを描いた作品だけに、他の田口俊作品に比べて、割とインパクトのある印象的な単語が並んでいます。《胸を刺す銀のピン》《燃えるアバンチュール》《ビターズのしみた角砂糖》《男のナルシズム》《ジャスミンの微風(かぜ)》《灼けた肌にラタンがほら痛い》《セクシーマリオネット》《カリブソのリズム》…南国を感じさせるワードと恋の駆け引きを思わせるワード織り交ぜ、全体的に刺激的な歌詞に仕上げています。
2位 ロコモーション・ドリーム 田村英里子
(9位 3.7万枚 作詞 田口俊 作曲 筒美京平 1989年) ★
こちらは3位とはうって変わって、キラキラ感満載のファンタジックな歌になっています。新人歌手のデビュー曲ということで、これからスタートするワクワク感さえ覚えますね。キーとなる言葉が《リニア・エクスブレス》で、2001年にあなたと新婚旅行でリニアエクスプレスに乗った夢を見たとこから始まり、そのリニアにあなたとの運命を託して走っていくような歌詞になっています。これに筒美京平のメロディーとキラキラ感ある小林武史のアレンジが見事にマッチ。田村英里子の歌も伸びのあっていいですし、田村英里子との仕事がこれ1回きりで終わったのが惜しいです。そして2001年から20数年経過した今、未だにリニアエクスプレスは走っていません。
1位 どうしてますか 原田知世
(7位 10.0万枚 作詞 田口俊 作曲 林哲司 1986年)★
過去の恋愛を振り返りながら、前を向いて新しく踏み出そうという田口俊お得意のパターンの詩ですが、その中でもこの歌詞が好きですね。原田知世とのタッグはこの1曲のみ。恋が終わったあの日から今日まで、彼女にとっての時間がいかに止まっていたかを表す表現が冴えています。《春色の去年の服 ポケットに去年の恋 買ったまま乗らなかった 白い切符 サヨナラの日付》《あの頃はあなたの駅 訪ねたの指を折って 急行の通過待ちが いつもとてももどかしかったの》ただ気持ちだけを歌うのではなく、こういった描写を適度に入れることで、より具体的な心情が伝わってくるというもので、その塩梅が心地よいです。
上記で触れていないヒット曲としては、CoCo『Live Version』(3位 11.8万枚)、高橋良明『恋の3-2-1』(6位 7.1万枚)、PINK SAPPHIRE『ハッピーの条件』(10位 9.6万枚)などがあります。