80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.348

 

ZOO  ECHOES

作詞 辻仁成

作曲 辻仁成

発売 1989年3月

 

 

川村かおりへの提供曲を自らのバンドでカバー、2000年に菅野美穂がさらにカバーしたことでリバイバルヒットと、時間と人をかけて大ヒットに結びついたECHOESの代表曲

 

 のちに作家として活躍する辻仁成が中心となった1981年に結成したロックバンドECHOESの代表曲といえばこの『ZOO』になるわけですが、この曲はいろいろな人の手に渡りながら、時間をかけた大ヒットに結びついたという、異色の「経歴」を持つ歌です。

 

そもそもは1988年11月、川村かおり(のちに川村カオリ)のデビュー曲として辻仁成の作詞作曲で提供されましたが、残念ながらこの時はオリコントップ100にも入りませんでした。ちなみに川村かおりとしてヒットに結びつくのは、6thシングル『神様が降りて来る夜』(1990年5月)の12位、さらにトップ10入りとなると、名曲をカバーした8thシングル『翼をください』(1991年1月)を待つことになります。

 

その川村かおりでヒットしなかった『ZOO』を、今度は自分たちECHOESの6thシングルとして1989年3月に発売することになります。この時は人気ドラマの劇中歌として使われたこともあり、ある程度の広がりを見せ、オリコンでは41位にまで上昇したことで、ECHOESの存在も次第に広がりを見せていきます。しかしながら、音楽好きな人には注目されても、一般的な広がりを見せるというところまでは、この時点ではいきませんでした。

 

そしてそれから時を経た2000年、この歌が再び、そしてさらに脚光を浴びることになったのです。テレビドラマ『愛をください』で主題歌として起用されたことで、シングルとして再発売されると、かつての最高位を優に超えるオリコンで19位初登場。そこからじわじわとチャートを上げていき、最高4位にまで昇り詰めました。さらにそのドラマに出演した菅野美穂が役名蓮井朱夏名義で『ZOO』をカバーシングルとして発売すると、これがオリコン初登場で5位を獲得。最高で3位にまでなり、トップ10内にECHOESの『ZOO』と蓮井朱夏の『ZOO』が同時にランクインというZOOバブルを経験するに至ったわけです。同じ曲なのに、発売した時代、タイアップの付き方、歌い手が違うと、ここまで結果が変わってくるのですね。

 

『ZOO』は作家としても活躍した辻仁成自身が作詞、作曲を行っていて、それだけに言葉のセンスは面白いなと思わせます。タイトルが『ZOO』というだけに、作品中には人間になぞらえた多くの動物や鳥たちが登場し、ユーモラスな味わいを醸し出してくれているのです。

《夜更かしの好きなフクロウ》

《本当の気持ち隠してるカメレオン》 

《朝寝坊のニワトリ》

《徹夜明けの赤目のウサギ》

《誰とでもうまくやれるコウモリ》

《白鳥になりたいペンギン なりたくはないナマケモノ》

《失恋しても片足で踏ん張るフラミンゴ》

《遠慮しすぎのメガネザル》

《ヘビににらまれたアマガエル》

《ライオンやヒョウに頭下げてばかりいるハイエナ》

《おしゃべりな九官鳥》

《僕にそっくりなサル》

ととにかくたくさん出てくるのですが、これを聴いていると、自分はどの動物だろうかとか、家族は、友達は、同僚は、上司はなどなど身近な人々と歌詞の動物たちを知らず知らずに重ねてしまったりするのですよね。きっと多くの人がそんな風に誰かを重ねて、この歌を聴いたのではないでしょうかね。それがこの『ZOO』の魅力の一つになっているような気がしてなりません。

 

 一部のファンが知っている隠れた名曲から、みんなが知っているヒット曲へ、いろいろな人の力を借りながら時間をかけて広がっていったという点では稀有な動きを見せた『ZOO』。波乱万丈な辻仁成の人生とともどこか重なって、人間の悲哀さえも感じさせる味わいのある一曲ではないでしょうか。