80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.346

 

予告編  守谷香

作詞 芹沢類

作曲 筒美京平

編曲 瀬尾一三

発売 1987年5月

 

 

彗星のように突然現れ、あっという間に消えていった胡散臭ささえ感じた謎の新人アイドルのデビュー曲

 

 守谷香は1986年松竹「ミス・レインボー」というコンテストでグランプリを受賞して芸能界デビュー、菊池桃子主演映画「アイドルを探せ」でデビューを果たしました。ただ、この時点ではあまり知名度も高くなく、知られた存在ではありませんでした。ところが1987年5月に『予告編』で歌手デビューを果たすと、テレビのザ・ベストテンやトップテンにランクイン。オリコンでも12位に顔を出し、一体守谷香とは誰なんだと、当時周囲が若干ざわついたのを覚えています。これは操作されたランキングではないか、胡散臭いぞと、そんな風に受け取られたのです。もし現在でしたら、SNSでは大炎上したのではないでしょうか。この時代は新人アイドルがデビューするとなると、それに先立って雑誌などで露出を増やして、事前に顔や名前を売っていくという手法は当たり前で、デビューの時点でなんとなく存在を知っているということの方が普通だったように思います。その中で、私自身も全く知らなかった守谷香の突然の登場は、正直なところびっくりしました。

 

 ではものすごく可愛かったかというと、正直なところ他のライバルたちと比べて目立っていたかというとそうでもなく、パッと見、アイドルとしては地味な印象は否めませんでした。では楽曲が良かったかというと、これも筒美京平が作曲しているものの、作品的には地味で無難なアイドル歌謡といった趣で、一回聴いて印象に残るような歌でもありません。ほんとうに何か操作されていたといわれても、信じたくなってしまうような状況だったのですよね。

 

 作詞は芹沢類で、アイドルを中心にかなり多数の作品を手掛けていますが、その中で代表的なヒット曲というとTOKIO『ハートを磨くっきゃない』ぐらいになるでしょうか。そのほか郷ひろみ(楠瀬誠志郎)『僕がどんに君を好きか、君は知らない』、Jungle Smile『片思い』(共作)といった名曲も手掛けています。『予告編』の歌詞はいかにも新人アイドルらしい、最初の恋に戸惑いながらも好きな気持ちをぶつけていくという、夏のラブソングになっています。

《だって知らない ムードの作り方》

《これが恋》

《そうねいけない 待ってるだけなんて》

《このまま妹になんかなれない》

《電話が途切れた日には 鏡ばかり見つめてた》

と恋に慣れない初心な女の子という自分を意識しながらも、

《背中に無邪気なふりで 何度もおでこぶつけたわ》

《振り向いて お願い 優しくさらってね》

《あなたの心へ体ごと 好きなのよ ためらう気持ちに負けないわ》

とかなり積極的に気持ちをぶつけていることも分かります。繰り返しになりますが、から、まさにストレートど真ん中の新人アイドル向けのラブソングなのです。ただこれでは個性を表現するのは難しかったでしょう。すでにデビュー時で知名度があったり、抜群の何かを持ったりしているのであれば、これでも勝負ができるのでしょうけれど、地味な守谷香でしたから、陣営はどういうように彼女を売り出したかったのか、とりあえず無難な路線で様子見というところもあったのでしょうか。とにかく何も名もが不思議な感じ、悪い言葉でいうと胡散臭さはありましたね。

 

 さて守谷香ですが、2ndシングル『あの空は夏の中』(1987年10月)はオリコン最高46位と大きく低下し、3rdシングルではオリコントップ100圏外へ急転落。7thシングルまで発売しますが、再び浮上することはなく、アイドル歌手としての活動は終えていきます。その後は女優業を中心に仕事をしていきますが、それも次第になくなり、結婚により芸能界から一旦引退をします。すっかり忘れられた存在になっていたのですが、この後再び芸能ニュースで守谷香の名前を聞くことになるのです。実は守谷香の結婚相手はX JAPANのTOSHIであり、TOSHIが一時期洗脳問題でワイドショーを賑わしたときに、守谷香かの名前を連日聞くことになったのでした。まさかこんな形で、忘れていたアイドルの名前を聞くとは…、ここでまた驚きを覚えるとともに、もしかしてデビューの時に胡散臭さはここに通じるものがあったのかとも思ってしまう自分もいました。真偽は知りませんが…。