80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.345

 

月光  BAKUFU-SLUMP

作詞 サンプラザ中野

作曲 パッパラー河合

編曲 BAKUFU-SLUMP

発売 1989年4月

 

 

色々な想像を掻き立てる歌詞と感情を高ぶらせるメロディーが秀逸、爆風スランプの中ではやや異質の幻想的な大人のラブソング

 

 爆風スランプ(BAKUFU-SLUMP)は、もともとお笑い系の色物コミックバンド的なイメージが強くて、

『うわさに、なりたい』(1984年12月)、『無理だ!』(1985年5月)、『まっくろけ』(1986年9月)などなどインパクトのあるふざけた曲をシングルとして発売しているようなバンドで、そこそこ知られてはいても、ヒット曲はないという存在でした。しかしお笑い系の曲とは別の主軸として、次第に青春ソングを手掛けるようになり、1988年10月発売の『Runner』でオリコン最高6位、売上34.3万枚ととうとう大ヒットに結びついたのでした。テレビ番組「天才・たけしの元気が出るテレビ」で毎週のように使われたことが大きく、やがて甲子園の応援歌として毎年のように使われるなど、世代を超えて歌い継がれるバンドとしての代表曲に育ったのです。そしてその次のシングルとして発売されたのが『月光』でした。

 

 この『月光』はアルバムからのシングルカット曲ということもあり、セールス的にはオリコン最高13位、売上9.0万枚と伸びませんでしたが、楽曲的にはかなり良い出来で、個人的には爆風スランプの中で最も好きな曲であります。『月光』はコミックソングではもちろんありませんし、得意とする青春ソングともまたちょっと違った味わいで、爆風スランプとしてはやや異質な曲ではあります。歌詞としては幻想的で神秘的そして耽美的な雰囲気を感じさせる比ゆ的な表現が多く、歌詞を読んで何のことを言っているのだろうと想像を掻き立てる魅力があります。個人的にも好きなフレーズがたくさんあって、他の作品と比べて大人の情事を歌っているのではないかと思わせるような新たな爆風スランプを見せてくれた、そんな印象でした。

 

《そうさ7月の夜 空の月がでかくて》

《いくらベルで呼んでも 人影のないホテル》

《たった一度のゆるい口づけ 長い廊下のつきあたり》

《はかないのは 爪をたてた 君の細い肩を照らした 月光》

《夜の動物園に 忍び込ませたのは君だぜ》

《光る瞳が見てる オリにとじこめられて》

《さあ 空を飛んで月を捕えろ》

月明かりに照らされるホテルの部屋、動物園の檻、動物の瞳、君の肩…と幻想的で神秘的な映像が浮かんでくるようなフレーズの数々。たった一晩だけの君との夜を思い起こさせるような耽美な世界。青春ど真ん中といった爆風スランプの他の曲とはちょっと違う雰囲気でしょう。そしてその言葉のリズムがよくて、メロディーに乗せて歌うとものすごく気持ちよいのです。特にサビの部分のメロディーが同じリズムでだんだんと音階を駆けあがってくような感じになっていて、気分的にも盛り上がっていくのが最高なのです。

《いつの頃か 忘れていた こんな気持ち せつない気持ち》

《はかないのは 爪をたてた 君の細い 肩を照らした 月光》

《僕の耳の中にあるのは 君の声と心臓の音》

《失うのは 明日のこと 夜が明けない 二度と醒めない夢》

ここの部分ですね。

 

 『Runner』の次であっただけに、もしこれが最初からシングルとして発売されていたら、どれぐらい売れたのでしょうか。爆風スランプの青春恋愛ソング、青春応援ソングももちろん良いのですが、でもこのちょっと大人の世界に踏み込んだようでそれでいて青臭さを残している『月光』が私は大好きなのです。

 

 さてこの後の爆風スランプですが、次のシングルのコミックソング系『リゾ・ラバ』(1989年7月)、青春恋愛バラード『大きな玉ねぎの下で~はるかなる想い』(1989年10月)と2作連続でオリコントップ10入りのヒットを放ち、引き出しの広さを見せます。そのあとしばらくチャート上位から遠ざかったものの、『涙2(LOVEヴァージョン)』(1992年3月)が自己最高の2位を記録、さらに間が空いて『旅人よ~The Longest Journey』(1996年9月)がオリコン8位と、時折ヒットを出し、健在ぶりを示したのです。パッパラー河合については、ポケットビスケッツの『YELLOW YELLOW HAPPY』『Red Angel』などの作曲でも話題になり、近年はサンプラザ中野“くん”とかつてのヒット曲をテレビなどで披露したりと、時々その姿を私達にも見せてくれています。