80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.327
天使と悪魔〈ナンパされたい編〉 伊藤さやか
作詞 Heart Box
作曲 Keith Brown
編曲 CHIKAWA TOWCHI
発売 1982年5月
強力ライバルたちのひしめく82年組の一人として登場したCM出身の新人アイドルの、テンポのいいロック調のリズムに乗せたテレビアニメ主題歌
1980年に資生堂のCMでデビューした伊藤さやかは、翌1981年には女優や番組アシスタントなどの活躍の場を広げ、1982年3月からは当時人気の漫画「陽あたり良好!」の実写版連続ドラマのヒロインに抜擢されたことで、人気の広がりを見せ、機も熟したということでその5月に歌手デビューを果たしました。もともと本人にロック志向があったということで、1982年組の強力なライバルたちとはちょっと違う路線で攻めようと、ややロック調のテンポのよい、それでいてポップで楽しい楽曲をデビュー曲として持ってきました。それが『天使と悪魔〈ナンパされたい編〉』でした。この曲はテレビアニメ「さすがの猿飛」のテーマソングにも使われ、私はこの番組をよく観ていましたので、自然にこの曲が耳にやきついていきました。
で、このデビュー曲の作詞作曲は見慣れない名前が並んでいて、このあたりにも他のライバルたちとの差別化を図っているのかなという感じはありますね、一見。しかし実は作詞のHeart Boxは篠原仁志の別名義ということで、徳永英明『夢を信じて』、小泉今日子『春風の誘惑』の作詞、荻野目洋子『ダンシング・ヒーロー』、長山洋子『ヴィーナス』の訳詞などのヒット曲に携わっています。そして作曲のKeith Brownも実は鈴木キサブローのことで、いうまでもなくヒット曲を多数輩出してきた作曲家で、なんのことはない、日本の作詞家・作曲家による作品だったということです。しかしそこはイメージ的な戦略もあったのでしょうし、本人のロック志向というところに合わせたのかもしれません、英語の名前が並んでいると、おっ、これはカバーかあるいは新進のアーティストの曲か、なんて考えてしまいますからね。
ただ歌詞をみてみると、やっぱりアイドルソングなのですよね。タイトルになっていますが、ナンパされたときに、自分の中の天使と悪魔それぞれの声がぶつかりあって葛藤するという、たまにあるようなスタイルの歌ですね。例えば本田美奈子『Temptation(誘惑)』なんかもその一つ。で、この『天使と悪魔〈ナンパされたい編〉』での天使の声は
《知らんぷりするのよ》
《ついて行っちゃダメダメ》
《ホラきた男はオオカミよ》
《そんなのフケツよやめなさい》
とブレーキをかけようとします。ところが悪魔の声は
《でもカッコいいじゃん》
《ドライブぐらい いいじゃない》
《でもAならいいじゃん》
《わかってたのに いいじゃない》
とナンパについて行くようにそそのかすわけで、さあどうしましょうかと迷いながら歌は終わっていきます。まあ、楽しい曲ではありますね。
当時はドラマの効果もあって一番伊藤さやかに勢いがあったときで、このデビュー曲はオリコン36位ながら、9.2万枚と歌手伊藤さやかとしての最大の売上を残したのでした。ただ本人はあまりアイドルに執着はなかったのかもしれませんし、ライバルがあまりに強力だったこともあって、以降はジリ貧になってしまいました。歌手として最後のシングルリリースは1986年2月。それから芸能界からは消えてしまうのですが、2000年代入って活動は再開しているようで、近年はあの人は今的な番組でも登場したのを見ましたが、今もスリムでお奇麗でした。