80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.320
瞳の誓い 井森美幸
作詞 康珍化
作曲 林哲司
編曲 萩田光雄
発売 1985年4月
ホリプロスカウトキャラバングランプリをひっさげて堂々デビューも、今やネタにされてしまう永遠のバラドルのデビュー曲
井森美幸がホリプロスカウトキャラバングランプリのタイトルを引っ提げて、華々しく歌手デビューした時には、まさか今のような将来が待っていようとは、本人も周りも思っていなかったのではないでしょうか。芸能人としては大成功、しかしアイドル歌手としては大失敗。ただし、アイドル歌手としてデビューしたこと自体がたびたび笑いのネタとして使われていることを考えると、井森美幸がアイドル歌手としてデビューしたことは決して無駄にはならなかったともいえるのかもしれません。
ホリプロスカウトキャラバンは当時のアイドル歌手への登竜門、井森美幸以前では榊原郁恵、堀ちえみらがアイドル歌手として成功を収めていました。その後は活躍のフィールドをアイドル歌手に限定しないような形になっていますが、出身者としては山瀬まみ、戸田菜穂、佐藤仁美、深田恭子、平山あや、石原さとみ、石橋杏奈、足立梨花、小島瑠璃子ら錚々たる人材を輩出しています。そんなタイトルを獲得しての大々的なプロモーションの元でデビューしたわけですから、井森美幸はそうとう期待されて送り込まれたはずでしょう。そんな井森美幸のデビュー曲が『瞳の誓い』でした。
『瞳の誓い』は実に正統派のアイドルソングといった楽曲で、そこに奇をてらったものは何一つなく、正統派のアイドルとして井森美幸を押し出そうとしたのは間違いないでしょう。作詞がヒット曲を多数作詞していた康珍化、作曲も当時売り出し中の林哲司ということで、間違いない!という二人を起用。前途洋々の中でデビューを果たした新人アイドルにとっては、まさに万全な体制でした。
歌詞の内容は、好きな人への憧れを綴った初々しいラブソングといったところですね。好きな相手に対する思いを、心の中で自分に誓っているような、いかにも10代の恋の初心者の女の子らしい内容です。まあ、面白くないといえば面白くないのですが、手堅いといえば手堅い感じ。まだまだこれからどちらの方向に向おうか、とりあえず様子をうかがってみよう、というような感じですかね。ただ当時の井森美幸は、アイドルとしてはどこか芋っぽいというか、いかにもどこにでもいるような女の子という印象は拭えませんでした。それに1985年デビューのアイドル歌手はかなりのメンバーが揃っていて、このライバルたちに勝ってのし上がっていくのはなかなかの至難。斉藤由貴、本田美奈子、中山美穂、南野陽子、浅香唯、芳本美代子、松本典子らがいて、さらにおニャン子クラブからのソロデビュー組で河合その子、吉沢秋絵、うしろゆびさされ組らがいたわけですから、今考えてもアイドルとして井森美幸がのし上がっていくのは…無理だったでしょうね。それでも『瞳の誓い』はオリコン最高31位となり、2ndシングル『99粒の涙』(1985年7月)が38位、3rdシングル『乙女心ウラハラ』(1985年10月)が35位と、初年度までは結構頑張ってはいたのです。ただ1986年になって発売した4thシングル『恋は理解力』が最高86位と急激にダウンすると、進む方向を考えないといけないようになってしまったのでしょう。結局5枚のシングルでアイドル歌手は断念。3年後にもう1枚レコード会社を変えてシングルを出していますが、これはもう目的も違ったものになったシングルでしょう。
そんな中で井森美幸が活路を見出したのが、バラエティアイドル、いわゆるバラドルというところだったのです。同じく1985年にデビューした競争に敗れた森口博子、翌1986年デビューで同じホリプロスカウトキャラバングランプリの山瀬まみらと、新しい分野を開拓していったわけですね。もっとも山瀬まみと森口博子は歌唱力もありましたし、特に森口博子は後にヒット曲も出して、何回も紅白歌合戦にも出ているのに比べると、井森美幸の歌手としての実績は、ちょっとせつないものがありますね。ただ早く見切りをつけて別の方向に進んだことは結果として息の長いタレント人生を送ることにも繋がったともいえるでしょう。その後数々のバラドル的存在が出現しては消えていく中で、井森美幸、森口博子、山瀬まみの3人は今もそれぞれの立ち位置で芸能界で生き残っているということを考えると、実に凄いことだし、ホリプロスカウトキャラバングランプリは伊達じゃないとも思えるわけです。