80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.313

 

It’s All Right  仲村トオル

作詞 松本隆

作曲 中崎英也

編曲 佐藤準

発売 1987年12月

 

 

デュエット曲のヒットで味をしめて発売した当時人気絶頂の若手俳優のソロデビュー曲、でも歌のことはそっとしておいてね

 

 映画の「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズなどで清水宏次朗とともにアイドル的人気を博していた仲村トオル、まずは『新宿純愛物語』で一条寺美奈とのデュエット曲で歌手デビューを果たし、これがオリコン最高4位とヒット。これに味をしめたか、ソロでも歌手デビューを果たしたその曲が『It’s All Right』です。売上実績はオリコンの最高順位は3位となり、当時の仲村トオル人気の高さを物語る結果となったのでした。ただ仲村トオル、『新宿純愛物語』の時にも述べたかもしれませんが、歌唱力がなんとも心もとなかったのですよね。相棒だった清水宏次朗は元々歌手で始まっていたため、歌唱力には定評があり、歌手としても多くのシングルを発売しました。どうしてもその清水宏次朗と比べてしまうため、余計に仲村トオルの歌唱力が劣ってみえてしまうのですよね。ですから、歌手としてのレコード発売はあくまでも企画物的な扱いで、発売したシングルは1988年の『傷だらけのHAPPINESS』と1992年の『ブラザーズ・ソング』と、『It’s All Right』以降は2枚のみ。このあたりは身の丈というものを、本人も周囲も自覚はしていたのかもしれません。

 

 さて『It’s All Right』ですが、作詞はなんと松本隆、そして作曲もヒットメイカーの中崎英也ということで、本気に取り組んでいたこともわかります。実際聴いてみても、楽曲自体はかなりかっこいい歌なんですよね。かっこよいながらも聴き心地の良いメロディーはさすが中崎英也。人気絶頂の仲村トオルのイメージを壊してはいけないと、歌さえ聴かなければイメージどおりの作品に仕上がっていたのではないでしょうか。

 

歌詞も男らしい、というよりも実に「くさい」青春友情ソングといったところで、ビー・パップのイメージに寄せてきているところはあるでしょうが、いからも“らしい”ものにちゃんとなっています。

《なぐさめ言葉は邪魔なだけだから 何も言わないよ》

《みんな孤独を背負って 長い旅をしてるだけさ》

《この道をみんな「青春」そう呼ぶけど 誰もたどりつく先を知らない》

《生きてることさえ空しい気分は わかる気もするさ》

《涙にくじけて倒れたままなら 本気でなぐるぜ》

《人は教えちゃくれない 自分自身学ぶことさ》

などなど、くさいフレーズのオンパレード。これを書いているのが頭の悪そうなロックバンドのリーダーではなく、あの松本隆ですから、意味深に聴こえてきたりするのですが、それはともかく、これは当時のビー・バップを纏っている仲村トオルにしか歌えない歌詞といってよいでしょう。そしてこの曲は、抜群の歌唱力で感情をこめて熱唱されるよりは、仲村トオルのように朴訥で不器用な感じで歌った方が、かえって伝わってきやすいようなそんな気もしますね。

 

その後の仲村トオルは、俳優として、年齢とともに変化していく中で、彼の持つ華やかさというものを今も失わず、どの作品でも存在感をしっかり示すことができる実力派俳優として、常に活躍し続けているわけで、素晴らしことだと思っています。歌唱力では清水宏次朗に負けていたかもしれませんが、その後の人生は歌唱力では決まらないよと、そういうことを暗に示してくれるような今となっています。