80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.298

 

はぐれそうな天使  岡村孝子

作詞 来生えつこ

作曲 来生たかお

編曲 船山基紀

発売 1986年3月

 

 

岡村孝子のシングルでは唯一、自らの作曲によらない3rdシングルは、ソロアーティストとして羽ばたくきっかけとなった来生たかお節炸裂の佳曲

 

 あみんを解散し、ソロ歌手として岡村孝子がデビューしたのが1985年10月発売の『風は海から』でした。あみんとしてミリオンヒットを放った岡村孝子も、ソロデビュー時は苦戦。『風は海から』はオリコンの100位にも入らず、2ndシングル『今日も眠れない』(1986年1月)も最高93位と、決して未来は明るく見えませんでした。ただ個人的にはこの初期の頃の曲が好きで、『風は海から』『今日も眠れない』以外にも4thシングル『夏の日の午後』(1986年7月)などはお気に入りでよく聴いていました。しかしそんな中でも好きだったのが3thシングル『はぐれそうな天使』で、この曲はホンダの自動車のCMにも起用されたことで、オリコン最高34位と前作からジャンプアップを果たしたのです。

 

 この『はぐれそうな天使』について特筆すべきは、作曲が来生たかおであるということ。岡村孝子は基本的に自らが作詞作曲を行っていて、まれに『銀色の少女』(2006年4月)など作詞は別の人(この曲はさだまさし)が担当していることもありますが、作曲についてはこの曲以外はすべて岡村孝子自身が担っています。どうしてこの時だけ自作以外の曲でとなったのか、CMが関係しているのかよく分かりませんが、結果的にここで一曲違うテイストの曲を挟んだことは成功したのではないでしょうか。

 

 当時作曲家としての注目度が高く、ヒットメーカーとして次から次へとヒット曲を世に送り出していた来生たかお、彼の作るメロディーには独特の来生節的なものがあって、特にこの『はぐれそうな天使』はその来生節が顕著に出ていたのではないでしょうか。そしてその独特のメロディーを岡村孝子が歌うことで、新しい魅力を引き出せていたように思います。とにかく寂しげで切なげなこのメロディーが、どこか当時の朴訥とした岡村孝子の雰囲気とマッチしていて、聴いていると感傷的になってしまうのです。それにはもちろん歌詞も貢献しているのですが、来生たかおが作曲ならば、作詞は来生えつことなるわけです。

 

 歌詞の内容としては、恋心がどんどんつのっていき、何をしていても「あの人」のことばかり気になり、自分で自分をコントロールできなくなっている自分をはがゆく思っている、そんな不器用でうぶな女ごころを歌ったものになっています。個人的に好きなのは2コーラス目のサビのところ。

《潮風に 体ごとさらしたら 少しは楽になると 思い立った私が不思議

潮風に 逆にあおられそうな あやうい恋心に あわててる》

爆発しそうな恋心をなんとか抑えよう海にやってきたものの、抑えるどころか逆にさらにあおられてしまう結果になってしまったということで、なんか微笑ましい感じを受けるのですよね。ただせつないマイナーのメロディーに乗せている歌詞だけに、微笑ましいからと言っても明るい気分になるわけでなく、せつなさがどんどんどんどんとつのっていく、そんな心情がひしひしと伝わってきて、私はこの歌が好きなのです。

 

 さて岡村孝子ですが、この2曲後の5thシングル『夢をあきらめないで』が、のちに岡村孝子の一番の代表曲となっていくわけですが、実は『夢をあきらめないで』はオリコン最高50位、売上1.3万枚と当時あまり売れていません。ただ最初に聴いたとき、彼女らしいいい曲だと思いましたし、実際に私はシングルレコードを買ったのですよね。そしてこれをきっかけにアルバムが売れるようになった岡村孝子は、次第にOLの教祖として崇められる(?)ようになっていくわけです。ただシングルでトップ10入りしたのはたった1曲のみ、1991年5月の『Good-Day 思い出に変わるならば』の9位なのです。シングルのヒットには実は縁が薄かったのですよね。その後大病を克服し、再び活動を始められたことは嬉しい限りです。

 

最後に、岡村孝子のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。

1 はぐれそうな天使 

2 夏の日の午後  

3 風は海から 

4 クリスマスの夜   

5 迷路 

6 今日も眠れない  

7 ミストラル 

8 天使たちの時 

9 夢をあきらめないで  

10  フォーエバー・ロマンス

★=80年代発売