80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.295

 

抱いてマイ・ラブ  早見優

作詞 松本一起

作曲 John Stanley

編曲 茂木由多加

発売 1983年12月

 

 

元祖帰国子女アイドルとしてブレイクを果たし後の人気安定期、抜群の英語の発音を生かした小気味よい一曲

 

 早見優というと、どうしても『夏色のナンシー』(1983年4月)のイメージが強くて、今でも早見優がテレビなどに登場して歌うのは99%『夏色のナンシー』です。確かに一番売れた曲ですし、初めてオリコントップ10入りしてブレイクを果たしたのもこの曲。ハワイ出身という彼女のバックグラウンドにもはまった曲で、代表曲になるのは当然なのですが、そのおかげでほかの曲にスポットが当たらないというのは、ちょっと残念な気もします。ということで、今回は早見優の曲の中で私が一番好きな『抱いてマイ・ラブ』を取り上げてみました。

 

 5thシングル『夏色のナンシー』がオリコン7位、売上26.9万枚を記録した後、5曲連続で10万枚以上を売り上げる人気の安定期に入っていきますが、8thシングルとして15.7万枚を売り上げたのが『抱いてマイ・ラブ』です。最高順位こそ13位と、『夏色のナンシー』以降、1985年8月発売の『PASSION』までの10曲のシングルの中で、唯一トップ10入りを逃してはいますが、売上枚数からすると、この10曲の中で4番目に多い枚数になっていて、けっして売れなかったというわけではありません。発売のタイミングが良くなかったのでしょう。

 

 早見優の曲には、ほとんど必ずといっていいほど、英語の歌詞が入っていて、抜群の発音で歌われることで、そのフレーズが強く印象付けられるというところがあるのですが、特にこの『抱いてマイ・ラブ』はところどころに挟まれる英語の部分が効果的に使われています。そのおかげで、曲がとても小気味よく感じられて、聴いていてとても気持ち良いダンサブルなノリに繋がっています。作詞は多くのヒット曲を手掛けた松本一起ですが、作曲はJohn Stanleyという謎の人物。この人のことは情報があまりなく、よくわかりません。

 

 この歌の女の子はわりと恋に積極的で自分からきっかけを作ることができる女性。

《今だけならきわどい 態度できるわ》

《傘の中でいいのよ kissをしたって》

《貴方の腕 脱げないほど 私をつかまえて》

などなど、従来のあなたのことを好きだけれど何も言えないの的で内気なアイドル象とはちょっと違う感じ。このあたりはハワイ出身のアメリカン的なキャラクターを前に出そうというところがあるのでしょうか。

 

 個人的には特にサビの英語交じりの箇所が好きで、

《私はgood girl 傘を閉じるの bad girl 濡れるわ はじらうgood girl うつむいて bad girl 逃げない》

《貴方にdon’t go 触れていたいわ don’t stop 知らない 迷わずdon’t go 怖くない don’t stop 嘘なの》

と、ここがとくかくかっこいいのです。good girlとbad girl 、don’t go と don’t stopという対をなす言葉を交互に挟むことで、強気な自分と恥じらう自分との間で揺れる女の子の心を表現しているのですが、抜群の発音でしかも強く英語の部分を歌っているので、それが切り替えスイッチのように、あっち行きこっち行きしている心の内がよく伝わってくるのですよね。

 

 早見優って、あまり歌唱力で語られることがなくて、一般的には特に上手でも下手でもなく、そつなくこなしているようなイメージだと思うのですが、ちゃんと聴いてみると音程は安定しているし、今のアイドルの基準からすると、ちゃんと上手なのですよね。ただ80年代の特に前半までは歌のうまいアイドルがたくさんいましたので、あまり目立たなかったというのはあるかもしれません。それら感情をいれて歌いこむという楽曲はあまりなく、英語を交えてさらりとカッコよく歌うことを求められていたというのもあるでしょうね。

 

 乃木坂46などの現役の若いアイドルたちが、番組やライブなどで『夏色のナンシー』を歌っているのをみたりすると、早見優にもこうして歌い継がれていく曲があるということはとても嬉しく思います。あとはこの『抱いてマイ・ラブ』あたりも、たまにはスポットが当たって、聴き返されるようなことがあるとなおさら嬉しいなとは思うのですがね。

 

最後に、早見優のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。

1 抱いてマイ・ラブ ★

2 渚のライオン  

3 ハートは戻らない 

4 アンサーソングは哀愁 ★  

5 哀愁情句 

6 夏色のナンシー  

7 誘惑光線・クラッ! 

8 PASSION 

9 ラッキィ・リップス ★ 

10  ミスターセーラーマン 

★=80年代発売