80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.290

 

ドラマティック・レイン  稲垣潤一

作詞 秋元康

作曲 筒美京平

編曲 船山基紀

発売 198210

 

 

 ドラムをたたきながらクリスタルボイスで歌う稲垣潤一の出世作であり、大作詞家秋元康の出世作でもある、意表を突くメロディーが独特なムーディー・シティポップ・チューン

 

 稲垣潤一は19821『雨のリグレット』でデビュー。当時としては新しい都会的な楽曲が、特徴的なクリスタルボイスにマッチして、切なげながら爽やかな雰囲気を醸し出していました。のちにシティポップといわれるジャンルの代表的な存在として挙げられることになるその片鱗は、すでにこの時から感じられたのです。そしてデビュー曲に続いて雨をテーマにした2ndシングル『ドラマティック・レイン』がヒットし、稲垣潤一の存在が広く知られることになりました。

 

稲垣潤一の特徴は、なんといってもその聴いていて心地よさを覚えるようなクリスタルボイスにあります。ですから悲しい雨の歌を歌っても、不思議とどこか爽やかさを感じさせ、それが歌われている都会だったり、リゾートだったりのイメージにぴったりはまるのですよね。そしてもうひとつ、ドラムを叩きながら歌を歌うというスタイルも、当時としては斬新で話題になりました。このあとC-C-Bの笠浩二やデビューした頃の森高千里などにもドラムボーカルが広がっていくわけですが、日本のメジャーな歌手の中では走りら近い存在だったのではないでしょうか。

 

さて『ドラマティック・レイン』はオリコン最高8位、売上31.4万枚というヒットとなるのですが、オリコン1位でミリオンセラーを達成する『クリスマスキャロルの頃には』(199210)が出るまでの10年間、実は稲垣潤一にとっては唯一のトップ10入りシングルであったわけです。そういう意味では稲垣潤一にとっては大きな一曲となったことでしょう。そしてもう一人、この曲が初めてのヒット曲となったのが、作詞を担当した秋元康でした。この曲でのヒットをきっかけに、作詞家としての評価を上げ、その後の活躍は今更いうまでもありません。

 

 この『ドラマティック・レイン』の歌詞ですが、今改めてパッと見ると、いろいろな歌の歌詞で使われているような単語を並べているような変哲のないものにも感じるのですが、当時聴いたときは、結構強いインパクトを感じたものです。まだまだ1980年初頭においては、人の内面からにじみ出る感情を歌詞にするような歌が多い中、当事者ながらどこか冷めた目線で第三者的に都会の雨の夜に佇む男女を描いている感覚は、新しく感じられました。そしてそれ以上に、こう言葉を展開していくだろうと思っていると、その期待を外されて別の言葉に展開していくことで、次々と期待をいい意味で裏切られるようなふわふわした感覚を覚えたのです。例えば

《もしもこのまま 堕ちていくなら》

と、堕ちていく先で二人はどうなるのと物語の進行を期待させておいたところで

《ああ 男と女 ドラマティック》

と、答えにも物語にもならない感嘆の言葉で透かされてしまいます。また

《レイン もっと強く降り注いでくれ 濡れて二人は》 

と雨に濡れた二人はこのあとどうなっていくの?と想像させたところで

《レイン もっと強く求めてくれ 冷えた躰で》

とまた元に戻ってしまい、今度こそは冷えた二人はどうなるの?抱き合って温め合うの?と思いきや

《雨の音さえ 隠せぬ罪》

と、まあ難しい展開に持っていくわけなのです。

 

 しかしながら、このあっちに行くかと思えば、こっちに来たかというのは、歌詞だけでなくて、メロディーもそうなのですよね。このあたりは作曲の筒美京平が実に良い仕事をしていると思います。

《ドラーマティーーーーーーーック》

といよいよサビで盛り上がっていくかとおもったところで、

《レイン》

と下に落ちていって、また

《もっと 強く 降り注いでくれ 濡れて二人は》

とまた徐々に上げていったところでまた

《レイン》

と落とすわけです。そしてこの上がるかと思ったら下がり、また上がるかと思ったら下がるの展開は、実はAメロからはじまっていて、歌詞とメロディーの両攻めによる、意表を突かれっぱなしのこのふわふわ感のおかげで、当時の私にとって『ドラマティック・レイン』がすごくおしゃれな作品に感じられたのでした。

 

このヒットの後、稲垣潤一は大ヒットこそ10年待つことになりますが、杉山清貴らとともに80年代におけるいわゆるシティ・ポップの代表選手としての地位を確実なものにしていくわけで、その意味で『ドラマティック・レイン』のヒットというものは、稲垣潤一にとっても、日本の音楽界にとっても大きな意味があったのではないでしょうか。

 

最後に、稲垣潤一のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。

1 エスケイプ ★

2 ドラマティック・レイン 

3 1969の片想い 

4 SHINE ON ME  

5 雨のリグレット 

6 心からオネスティー

7 バチェラー・ガール 

8 セブンティ・カラーズ・ガール 

9 1ダースの言い訳 

10  思い出のビーチクラブ 

=80年代発売