80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.285
雨音はショパンの調べ 小林麻美
日本語詞 松任谷由実
作詞作曲 Gazebo, P.L.Giombini
編曲 新川博
発売 1984年4月
8年ぶりに歌手として突然復活してリリースしたカバー曲が大ヒット、自身の雰囲気とともにテレビで歌唱しないことがさらにそのミステリアス性を高めた一曲
小林麻美は18歳の1972年8月に『初恋のメロディー』で歌手デビューを果たしました。このデビュー曲はオリコン最高27位、売上9.9万枚とそこそこの売上を残したのですが、数年間歌手活動を続けた中でこれ以上の売上を残すことができず、1976年2月の7thシングルを最後に、歌手としてレコードを出すことをやめてしまいます。以後は女優業、モデル業にフィールドを移していくわけで、この頃の小林麻美については、私はまったく記憶にありません。おそらく化粧品のCMなどは観ているはずですが、小林麻美という存在を意識したことがなかったので、気づかずにスルーしていたのでしょう。ですから、1984年4月に『雨音はショパンの調べ』をひっさげてヒットチャートに登場してきたときには、あまりに突然な感じがして驚いたものです。そしてそれがオリコン1位、売上52.0万枚という大ヒットという結果でした。
さてこの『雨音はショパンの調べ』はカバー曲でありまして、元歌は『アイ・ライク・ショパン / I Like Chopin』というイタリアのガゼボという歌手の楽曲でした。1983年に発表されて、日本でも洋楽チャートなどではそこそこヒットした記憶はあります。そして日本語詞をつけたのが松任谷由実。原題の「ショパン」を生かしながら、さらに趣のあるタイトルにしたのが素晴らしいところで、この情緒あるタイトルも、この曲のヒットの一因になったのではないでしょうか。『雨音はショパンの調べ』なんて、タイトルを聞いただけで、どんな曲か聴いてみたくなりますからね。
それでもってこの歌詞が、小林麻美自身のアンニュイな雰囲気と見事にマッチしているのです。
《耳をふさぐ指をくぐり 心痺らす 甘い調べ》
《Rainy Days 気休めは 麻薬》
《ひざの上にほほをのせて 好きとつぶやく 雨の調べ》
雨の降る夕刻、失くした恋に思いを馳せながら過ごす時間のけだるさ、怠惰感が歌詞全体を包んでいるのですが、これを小林麻美が実にけだるそうに歌うのですよね。一生懸命声を張って歌うというのとは対極にあるような歌唱で、独特のムードを作り出しています。特に《気休めは麻薬》の箇所は、今にして思うと結構危険な歌詞ですよね。
ただこの曲1位になる大ヒットにも関わらず、テレビでまったく歌うことがありませんでした。ロックやフォーク系のミュージシャンには、当時テレビに出ないのがかっこいい的な風潮があって、ランキング番組に入っても、出演しないということは時折あったのですが、元々はアイドル的なところから出た人ですし、CMやドラマにも出ていたのに関わらず、歌は歌わなかったのですよね。一度テレビで歌う姿も観てみたかったのですが、イメージ戦略があったのでしょうか。もしテレビで歌っていたら、もっとヒットしていたかもしれませんね。
ただこの『雨音はショパンの調べ』以降は、また売上も低下していき、結果として歌手としては一発屋的な感じにはなってしまいます。玉置浩二作曲『哀しみのスパイ』(1984年8月)、松任谷由実作詞作曲『移りゆく心』(1987年3月)といった一流ミュージシャンによる楽曲だったり、再びカバーに挑んだ『シフォンの囁き』(1985年5月)だったりと、作品には意欲的ではあったのですが、このあたりはテレビに出ていないところが影響していたかもしれません。もし『雨音はショパンの調べ』でテレビでもっと露出していたら、もう少し違う展開があったのかもしれないとは思います。