80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.282
ジェームス・ディーンみたいな女の子 大沢逸美
作詞 阿木燿子
作曲 宇崎竜童
編曲 宇崎竜童
発売 1983年2月
ホリプロスカウトキャラバンのグランプリをひっさげ、ボーイッシュな個性を前面に打ち出してデビューも、アイドル不作の年に苦戦
大沢逸美は1983年にアイドルとしてデビュー、ホリプロスカウトキャラバンのグランプリを獲得し、期待されて送り出されましたが、1983年は前年1982年に人気アイドルが多数デビューし、その前年デビュー組がいよいよ本格的に人気が上昇してきたのが1983年ということで、かなり苦戦を強いられることになります。1982年は俗に花の82年組と言われ、中森明菜、小泉今日子をはじめ、早見優、石川秀美、堀ちえみ、三田寛子、シブがき隊に81年末デビューの松本伊代まで含めてそうそうたるメンバー。では翌年1984年デビュー組はどうだったかというと、菊池桃子、岡田有希子、荻野目洋子、長山洋子、倉沢淳美、少女隊、吉川晃司とこれまたなかなかの粒ぞろい。対して1983年デビュー組は大沢逸美のほか、森尾由美、松本明子、桑田靖子、岩井小百合、伊藤麻衣子、The-Good-Byeと歌手としてはみんな低調。そんな中でもライバルと差別化して、売っていかなければならなかったので、たいへんだったでしょう。そこで大沢逸美陣営が選んだ戦略が“ボーイッシュ”だったのです。
大沢逸美は身長が170cm近くある長身でしたので、それを生かして中性的な雰囲気で個性を出そうとしたのでしょう。髪もショートカットで、多くの可愛い系のアイドルとは対照的で、確かにこの路線なら、バッティングはなかったはずです。そしてそのイメージに合わせて作られたデビュー曲が『ジェームス・ディーンみたいな女の子』でした。夭逝した伝説のハリウッドスター、それも男性のスターをタイトルに使い、そんな男性大スターみたいな女の子っていったい?と、インパクト的にはかなり強いタイトルといっていいでしょう。そしてさらにタイトル以上に強烈だったのがこの歌詞です。
作詞は阿木燿子ということで、かなり刺激的なラインを敢えて狙ってきたことは想像できます。
《人を好きになるのは理屈じゃないよね》
《君からのラブレター 押し花が一枚》
と普通のラブソングとして始まっていきますが、突然
《女の子同志 通い合う心だってあるさ 恋によく似た 恋の手前の Heart to Heart》
と、かなり当時としてはびっくりなフレーズが差し込まれます。一応「恋によく似た」という言葉で和らげてはいますが、2コーラス目も同様な展開が続きます。
《かばってあげたくなる 君は恥ずかしがり屋》
《聴きたいといっていたレコード テープにとって 明日持っていくよ》
《女の子同志 信じあう心だっていいさ 恋によく似た 恋によく似た Heart to Heart》
ですから、かなり攻めた歌詞といっていいでしょう。
ただ、よくよく考えてみると、これ、いったい誰をターゲットにしているの?ということになります。当時の男の子どもは、結局なんだかんだいってもかわい子ぶりっこに心を揺さぶられるわけで、背の高くてボーイッシュな、しかもちょっと同性愛っぽい匂いを醸し出している少女になんか、恐れ多くて気持ちは向かわないですよね。かといって、同性の憧れとして人気を掴むにも、デビューしたての女の子ではちょっと弱いし、それよりもこの方向で果たして女の子が憧れるか?と微妙にずれている感じなのですよね。結果として、かなり売り出しをかけたにも関わらず、『ジェームス・ディーンみたいな女の子』はオリコン最高62位と、厳しい結果に終わってしまったのでした。
そんな不作な1983年組ですが、芸能人としてはしぶとい人たちも多く、松本明子、いとうまい子、森尾由美など、それぞれのフィールドで長く活躍しています。その中で紆余曲折ありながら、大沢逸美もこつこつと女優業を長く続けてきたのは素晴らしいことだとは思います。