80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.256
夏をあきらめて 研ナオコ
作詞 桑田佳祐
作曲 桑田佳祐
編曲 若草恵
発売 1982年9月
高田みづえに続き研ナオコも桑田佳祐のお世話(?)に。シングルの売上低迷から脱し、サザンのカバーによって久しぶりのヒット
1971年に歌手デビューした研ナオコにとっての初めてのヒットとなったのが、1975年9月発売の9枚目のシングル『愚図』で、オリコン最高9位、売上27.2万枚を記録。その次が12枚目の『あばよ』(1976年10月)でこちらはオリコン1位で売上も64.4万枚の大ヒット。それから16枚目『かもめはかもめ』(1978年3月)がオリコン7位、33.0万枚、つづく17枚目『窓ガラス』(1978年7月)がオリコン8位、23.8万枚と、何曲かごとにヒットが誕生するサイクルにありました。特に『あばよ』『かもめはかもめ』『窓ガラス』の3曲は中島みゆき作詞作曲ということで、中島みゆきとの相性も良かったのでしょう。ところが1979年から3年間はオリコントップ10から遠ざかり、ヒットに恵まれない状況に陥ります。そんな中で久しぶりにヒットとなったのが、今回取り上げた29枚目シングルの『夏をあきらめて』です。実に12枚ぶりのトップ10入りシングルとなった『夏をあきらめて』はオリコン5位、売上37.7枚と、研ナオコのキャリアにおいて2番目のヒット曲になったのです。
この『夏をあきらめて』は実はカバー曲で、オリジナルはサザンオールスターズのアルバム「Nude Man」に収められていた一曲で、作詞作曲はもちろんボーカルも桑田佳祐が務めた楽曲でした。サザンのアルバム楽曲のカバーからのヒットときいて思い出すのは、高田みづえの『私はピアノ』です。1980年7月発売されたこの歌は、高田みづえにとって10作ぶりのトップ10シングルとなり、いわば低迷状態を桑田佳祐に救ってもらったわけなので、研ナオコの『夏をあきらめて』と極めて似た状況といえるでしょう。高田みづえは後にも同様にサザンのアルバムから『そんなヒロシに騙されて』をヒットさせています。ただ高田みづえの歌った2曲は、女性である原由子がボーカルをとったものであったのに対し、『夏をあきらめて』は男性ボーカルで歌詞も男性詩であるところが、ちょっと異なる部分です。
楽曲はといえば、やはり桑田佳祐の作った曲ですし、すでに出来上がっている曲から選んだということで、発売前からヒットは約束されていたようなものかもしれません。歌詞の内容は、楽しみにしていた夏の海辺のデートが、悪天候のために断念せざるをえない状況になって、がっかりしている気持ちを歌っていて、そのけだるい感じがメロディでも見事に表現されているのですよね。サザンの楽曲の中でもどちらかというと異質な感じはする楽曲だと思うのですが、そのけだるさが研ナオコのボーカルにもマッチしたというのもあるでしょうね。
研ナオコという歌手の特徴は何かと考えると、けっしてボーカルに迫力があるタイプではないですし、声が特別にきれいだとかいうこともなく、他の歌手と比べてずば抜けて上手だというこもなく、むしろどこか力が抜けたような、けだるさを纏ったような歌唱が魅力だと思うのですよね。『あばよ』とか『かもめはかもめ』とかもその特徴が見事にはまったゆえのヒットでしたし、『夏をあきらめて』も同様に、研ナオコのボーカルがしっかり生かされていたと思います。その意味で『夏をあきらめて』をサザンのアルバムからチョイスしたというのは、見事に正解を選んだといえるのではないでしょうか。
研ナオコといえば、どうしてもバラエティなどでみせる軽妙なやりとりが前面に立つような印象がありますが、ヒット曲多数の個性的なボーカリストとしての存在感も、やはり忘れることはできないのです。