80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.243

 

速達  ばんばひろふみ

作詞 竜真知子

作曲 馬場章幸

編曲 瀬尾一三

発売 198211

 

 

 

ラジオ番組「セイ!ヤング」で人気のパーソナリティが3つめのヒットを狙い、結婚を決意し父親に彼を会わせる女性の覚悟を綴った佳曲

 

 ばんばひろふみは、まず二人組「バンバン」として19758月に発売した『「いちご白書」をもう一度』がオリコン1位、売上75.1万枚の大ヒット。さらにソロ歌手としても19799月に発売したSachikoがオリコン2位、売上はまったく同じ75.1万枚と大ヒット、歌手としての実績を残していました。また一方でラジオパーソナリティとしても人気で、特に文化放送「セイ!ヤング」でのトークは常に話題になっていました。当時はフォーク系ミュージシャンがラジオで活躍することも多く、谷村新司、さだまさし、南こうせつなどもラジオでの人気が高く、その流れの中にばんばひろふみも確実にファンをつかんでいました。

 

 そして『Sachiko』のヒットから数年経ったところで、久しぶりのヒットを狙ってプッシュしていたのが、今回紹介する『速達』です。当時ラジオの番組などでも「オリンピック歌手」と自らを茶化しながら、この曲を紹介していたのを覚えていますし、実際ラジオCMなどでも『速達』が結構なヘビーローテーションで流され、本気で宣伝しているのは伝わってきました。実際にいい曲だったと思いますし、聴いていてまた大ヒットするかもしれないなとは思っていました。本人的にも自信はあったのでしょうね。

 

 この速達、作曲は馬場章幸となっていますが、ばんばひろふみのペンネームで、自身が手掛けています。一方、作詞はプロの作詞家竜真知子が担当し、この詩がなかなか味わい深いものになっています。結婚を決意し、その結婚相手となる男性を両親、特に父親に紹介するにあたり、手紙の往復でやりとりするところに、いろいろな思いを想像させられるのです。当時はもちろんeメールなどはない時代ですが、電話で済むことでは?と普通に思ってしまいます。それが

《一度会って欲しいひとがいますと 父に手紙書いた あれは先週》

に対し

《郵便物は来ないはずの日曜 思いがけず着いた 赤い速達》

《一度二人でおいでとだけ 書かれた手紙》

と、双方ともに手紙でのやりとり、しかも返信は速達なのですよね。そこにあるのは、

《軽い気持じゃ 言えなかった今まで》

とあるように、電話で軽く済ませるような話ではないという女性の結婚というものに対する気持ちなのでしょう。手紙でのやりとりというものに、彼女の決意に重みが感じられるのです。その場で話が完結する電話ではなく、敢えて

《思いつめて返事待つ日々》

とあるような、返答に時間がかかる手段を選んだところに、父親への思いやり、そして

《だけど私戻れない 何がぁっても戻れない》

という結婚への覚悟、そして結婚相手への深い愛情、そんなものが伝わってきて、実に味わい深いではありませんか。

《父が許してくれました 父が許してくれました》

で終わるラストがまたいいですね。

 

 「とりあえず結婚するのでお父さんも知っていてね、だめなら別れればいいしね、式もやらないから」的な今どきありそうな軽い感じとは対照的で、一度嫁いだらもう帰る場所はこっちじゃないんだよと、ともすると古風な感も受けるやりとりなのかもしれませんが、1980年代の初めにはまだ残っていたのですよね、こういった思いが。こんな感じで『速達』は、何か物語を読んでいるような歌詞がとにかく素敵でした。ただセールス的にはあまり跳ねませんで、売上枚数は9.2万枚とそこそこ売れましたが、最高順位は34位とパッとせず、ばんば自身3度目のオリンピック出場には、ちょっと届かなかったという感じですかね。個人的には、もっと売れても良かった曲だと思っています。

 

 その後ばんばひろふみは西武ライオンズの応援ソングを歌ったりもしましたが、全国的なヒットには恵まれず、それでも得意のラジオで活躍を続けているようです。