80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.223

 

だいすき  岡村靖幸

作詞 岡村靖幸

作曲 岡村靖幸

編曲 岡村靖幸

発売 198811

 

 

 

唯一無二の才能を誇る問題児岡村ちゃんらしさ全開、CMで人気を呼んだ、ポップで甘くて情熱的なラブソング

 

 何度もいろいろと問題を起こしながらも、その都度戻って新しい音楽を作り続ける岡村靖幸。やはり他の誰にも真似できない、独特でオリジナリティあふれる作品を作り出す才能は捨てがたいものがあるのでしょうね。ただあまりにも癖が強い作品が多いので、大衆的に広く受け入れられるというのは難しいようで、シングルのヒットにはなかなか結び付いていません。オリコンのシングルチャートのトップ20入りを果たしたのは唯一1曲のみ、『あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう』(199010)の最高20位だけです。ただ特に1980年代終盤から1990年代初頭には、『聖書』(19889)『友人のふり』(198912)『カルアミルク』(199012)といった名曲も多く、今回取り上げた『だいすき』もちょうどそのころに発売されたシングルになります。

 

 この『だいすき』はセールスこそオリコン42位、売上2.1万枚と際立った実績にはなりませんでしたが、岡村靖幸にしてはポップでキャッチーな分かりやすいサビで、さらにホンダトゥデイのCMに起用されたことから、岡村靖幸を聴いたことのない一般の人の耳に届いたという意味で、ひとつのきっかけになった作品であることには違いないでしょう。このCMには当時人気急上昇の今井美樹が出演し、自動車のCMとしてはとてもおしゃれな感じで、それまでの偏屈でひねくれたイメージの岡村靖幸に、おしゃれな岡村靖幸というものが、ひとつ引き出しに加わったような、そんな感覚さえ覚えました。

 

 もっとも岡村靖幸は自身の歌唱曲だけでなく、他のアーティストへの楽曲の提供も行っていて、その意味では実はもともと引き出しの中身は結構多かったのかもしれません。特に渡辺美里には『Long Night』『虹をみたかい』『泣いちゃいそうだよ』『BIG WAVEやってきた』など多数ヒット曲を提供していて、しかもそれぞれタイプの異なる雰囲気の曲になっています。ほかには川本真琴『愛の才能』などもありますね。

 

 さて『だいすき』ですが、岡村靖幸らしい、情熱的で且つキュートで甘いラブソングになっています。メロディーはポップな中でも岡村靖幸らしさ全開の癖のあるものになっていますが、それ以上に独特の歌詞がとにかく好きです。

《赤のブーツとすれすれのミニ》

《肩に手を伸ばした時 雨がいきなりザッザサーザと本降り まるで責めてるみたいだ 動機が不純なぼくを》

《髪が濡れた横顔に ほほよせたら奇麗なぬくもり ぼくは拍手を送りたい 計算ちがいの雨に》

と下心と予想外のアクシデントのせめぎ合いみたいな感じがとってもお茶目。さらに

《あの海辺よりも》

《甘いチョコよりも》

《あの星空より》

《赤いワインより》

《大好き》

なんて、こんなことを言われたら女の子はもうすっかりメロメロじゃないですか?って思わせるような甘いワードを使って、愛を唄うわけです。そしてこの作品をキュートなものにしているもう一つの要因は、子供たちの声のコーラスでしょう。曲の一番はじまりの部分、子供たちの声からイントロが始まり、そしてサビの部分で効果的に使われていて、なんか子供と一緒に歌っているだけで、良い人そうに思えてくるから不思議なのですよね。

 

 この曲、かなりCMでも流れていましたから、もっと売れると思ったのですけどね…。でも岡村靖幸の曲の中では、広く知られた代表曲になったことには違いないでしょう。私にとっても『だいすき』は大好きな曲になりました。