80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.215

 

夏の雫  三田寛子

作詞 阿木燿子

作曲 井上陽水

編曲 坂本龍一

発売 19827

 

 

 

期待の新人アイドルのセカンドシングルは、超豪華作家陣がタッグを組んだ夏の勝負曲

 

 三田寛子は歌手というよりは、その後のバラエティ番組での活躍の方が印象に強く、特に1984年から1987年まで出演していた「笑っていいとも!」のイメージが残っています。その後はご存知のように、歌舞伎の世界と関わっていくことになるのですが、京都弁でおっとりしたイメージは未だに変わっていませんね。ただデビューに関しては、当時の他のアイドルたちと同じような流れでスタートしていきます。歌手デビューに先立ち、1981年にドラマ「2年B組仙八先生」に出演、シブがき隊の3人や本田泰章らとともに人気の生徒の一人となり、その翌19863月に『駈けてきた処女』で歌手デビューを果たしました。

 

 ただこの1982年にデビューしたアイドルたちは後に82年組といわれる大豊作の年。シブがき隊に加え小泉今日子、中森明菜、堀ちえみ、早見優、石川秀美、さらにデビューは前年末ですが新人賞の対称としては1982年の新人になる松本伊代など、そうそうたるメンバー。その激しい競争の中でデビューした三田寛子、デビュー曲『駈けてきた処女』はオリコン最高21位、売上8.6万枚と、まずまずの結果を残したのです。ライバルたちそれぞれのデビュー曲は小泉今日子が22位・9.7万枚、堀ちえみが27位・8.8万枚、石川秀美31位・6.0万枚、早見優36位・6.3万枚とほぼ横一線。中森明菜だけは30位・17.4万枚と桁数が多かったのですが、このセールスは後にロングセラーになって積み重ねたもの。いきなりトップ10入りの松本伊代を除くと、2枚目以降が勝負といった状況であり、その中でリリースした2ndシングルが今回取り上げた『夏の雫』というわけなのです。

 

 『夏の雫』はまた作家陣が豪華で、本当に力が入っているというのが分かるラインアップ。何せ井上陽水に坂本龍一ですから、これで他のライバルたちとの争いから一歩抜け出せるという意気込みが伝わってきます。無難で大人しい曲調のデビュー曲と比べると、さすが陽水というちょっとひねったおしゃれかつスリリングなメロディーに、阿木燿子らしい大人っぽく背伸びした歌詞で、ぐっと攻めた感じになっていました。この曲はかっこよくて、私も結構好きだったのですよね。でも残念ながら売れませんでした。オリコン最高28位、売上6.5万枚とデビュー曲よりも低下してしまったのです。もしかすると、三田寛子のキャラクターからすると、ちょっと攻めすぎたのかもしれません。

《去年の水着 胸がきついの》

《貝に巻かれたビーナスみたいに》

《奪われそう 激しい口づけ》

《窓にもたれた イブのほつれ毛》

と、無理している感がそぐわなかったのかもしれませんね。

 

これで陣営が焦ったのかどうは分かりませんが、この後はカバー曲に走ったりと、やや迷走していきます。ライバルたちがどんどん人気をあげて、テレビのランキング番組にも顔を出すようになっている中、レコードセールスは出すたびに低下していき、デビュー1年目の終わりごろには、アイドル歌手としては大差をつけられてしまったのです。可愛くニコニコというアイドルをうまく演じられなかったというところはあるかもしれません。しかしその「素」の魅力が、のちにバラエティー番組で見いだされ、人気を呼んでいくわけですから、この世界は分からないものです。結婚後はしばらく芸能界からは離れていましたが、近年は子育ても落ち着いたのか、ちょくちょくテレビでその姿を見かけることもまた増えてきました。ただ三田寛子が歌手だったということを知っている人も、少なくなったのではないでしょうかね。