80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.205
転校生 藤谷美紀
作詞 麻生圭子
作曲 岸正之
編曲 萩田光雄
発売 1988年4月
第1回全日本国民美少女コンテストグランプリの肩書をひっさげてデビュー、期待の大きさが表れた正統派アイドルソング
後藤久美子をきっかけとした美少女ブームも中、栄えある(?)第1回国民的美少女コンテストのグランプリを獲得したのがこの藤谷美紀。当然その期待は大きくなるでしょう、奇をてらわずに正統派アイドルとして大きく育てていこうという意思の表れたデビュー曲がこの『転校生』でした。ちなみに第2回以降の国民的美少女コンテストにて、グランプリを獲得した主なタレントを挙げてみると、細川直美(第2回)、小田茜(第4回)、佐藤藍子(第5回)、河北麻友子(第9回)、吉本実憂(第13回)、高橋ひかる(第14回)とやや微妙な感じ。むしろグランプリを逃した面々に、鈴木紗理奈、米倉涼子、上戸彩、福田沙紀、忽那汐里、堀田茜、剛力彩芽、持田香織などがいるので、グランプリを獲らない方がいいのでは…ということもないのでしょうが…。もっとも第1回目の当時は、そんな将来を知る由はなく、グランプリを獲得した藤谷美紀には、間違いなく大きな期待がかけられ、それなりの規模をもって売り出しが行われたはずです。
当時大学のサークルの先輩たちは彼女を見て、南野陽子とのホクロとは違って、この子はホクロを取った方がいいね、なんて話しているのを聞いて、そんなものかなとは思っていたのですが、結局はいつの間にかホクロをとってしまっていたので、本人も気にしていたのでしょうかね。
さて、デビュー曲『転校生』は、自分が新しい学校へ転校して、まだ友達もいなくて寂し思いをしていたところ、前の学校でずっと好きだった男の子から「I Love you」と綴られた手紙をもらい、ようやく心が通じて、好きな気持ちが強まったという歌詞が歌われています。《ずっと好きだったけれど 席も離れていたから 言葉さえ交わせず さよならをした》という内気な女の子と、内気な男の子。《転校生になってから やっと心が通うの もう逢えないけれど それは勇気をくれる》と、けっして会うことのない二人ではあっても、この手紙によってこれからの毎日を前向きに過ごすための力になったという、アイドルのデビュー曲としては満点の歌詞でしょう。二人は恋人同士にはならないと聞くと、ファンは安心するでしょうし、積極果敢な女の子よりは、こうした内気な女の子像の方が、応援したくなるもの。そのあたりをきちんと押さえて作った麻生圭子、さすが売れっ子作詞家です。
作曲の岸正之も女性アイドルの曲を多数手がけていて、安心してデビュー曲を任せられる作曲家だったということで、『転校生』はいきなりのトップ10となるオリコン最高10位という実績を残しました。こうしてデビュー曲としては上々のスタートを切ったのでしたが、結局これがキャリアハイになってしまったのですよね。2作目『応援してるからね』(1988年7月)は、作詞売野雅勇、作曲林哲司とこれまた売れっ子作家陣で、野球部の男の子を応援するという実にすがすがしい爽やかな青春ソング。こちらも王道アイドルソングだったのですが、アイドル歌手としてはそれ以上にブレイクすることはありませんでした。ただその後は女優業にシフトし、息長く活躍を続けていますので、そのあたりは伊達に国民的美少女グランプリじゃないよ、ということですね。