80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.192
とっておきの君 竹本孝之
作詞 小椋佳
作曲 馬場孝幸
編曲 鷺巣詩郎
発売 1982年4月
自身主演のドラマ「陽あたり良好!」の主題歌としても話題に、デビュー2年目に自身キャリア最高の売上をあげた“とっておき”の一曲
1981年の新人賞レースは史上稀にみる男性ソロアイドル活況の年であり、沖田浩之、ひかる一平、堤大二郎、そして近藤真彦(デビューは1980年末)らとともに、レースを争ったのが竹本孝之でした。デビュー曲『てれてZin Zin』(1981年7月)は新人賞のステージでもよく歌われ、オリコン最高68位、売上2.1万枚という数字以上に、多くの人たちの印象に残る曲となったのです。そんなホップの年となった1981年を受けての1982年はステップの年ということで、竹本孝之はさらにその活動を広げていくことになります。
特に1982年3月から始まった連続青春ドラマ『陽あたり良好!』では主演を務め、ヒロインが伊藤さやか、原作は当時人気に火がつき始めていたあだち充ということで、中高生を中心に話題を集めました。私も毎週のように観ていた記憶があります。そしてそのオープニングテーマ曲となったのが、竹本孝之が自ら歌う『とっておきの君』だったのです。デビュー曲『てれてZin Zin』、2ndシングル『連想ゲーム』のキャッチーなコピーが印象的な明るくコミカルな曲から一転、マイナー調のストレートな青春ラブソングで、まさにドラマを盛り上げるにはぴったりの曲が『とっておきの君』で、結果的にはオリコン最高31位ながら売上8.6万枚と、キャリアで最高の売上を残したのでした。
『とっておきの君』の作詞は小椋佳。デビュー2年目のアイドルにも詩を提供していたことが、今となっては驚きがありますね。自身でももちろん歌っていましたが、他の歌手への提供曲としましては、布施明『シクラメンのかほり』(詩・曲)、中村雅俊『俺たちの旅』(詩・曲)、美空ひばり『愛燦燦』(詩・曲)、梅沢富美男『夢芝居』(詩・曲)、堀内孝雄『愛しき日々』(詩)などが主だったところですが、大物ばかりですからね。そんな小椋佳による歌詞は、まさにストレートな青春ラブソング。何の衒いもなく、君への熱い思いをまっすぐにぶつけている、そんな歌です。ファンにとって、ぐっとくるような、たまらない曲だったのではないでしょうか。
ただし、今回は『とっておきの君』を取り上げてはいるものの、個人的には次の4枚目のシングル『だから、青春』が竹本孝之のベストだと思っています。青春時代の熱さ、切なさ、はかなさ、そんないろいろなものが短い曲の中に詰め込まれたこの曲が、アイドル竹本孝之のピークではなかったでしょうか。かっこよさと可愛さ、ヤンチャさとクールさ、そんな両方を兼ね備えていた竹本孝之の魅力が、最も現れた一曲でした。
ただこの頃から、ジャニーズ以外の男性アイドルは活動の場所がどんどんと狭められていくような環境に変わっていきます。男性アイドルはジャニーズだけ、そしてそれもグループという時代の流れの中で、竹本孝之は思ったよりは売れませんでした。もちろんその後も俳優として、歌手として、芸能界で活動を続けていきます。1986年から1987年にかけと放映されたNHKドラマ『まんが道』での活躍は今でも印象に残っています。今でも、時折テレビなどで見かけることもありますが、それでも当初想像していたような華々しい存在とは違う形になってしまったように思います。同じ男から見ても、かっこいいと思っていましたし、もっと活躍するのではないかと応援もしていました。時代とか環境とかが違えば、もっとはねた素材だったのにと思うと、芸能界の厳しさを改めて認識させられる思いですね。