80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.191
花ぬすびと 明日香
作詞 すずきゆみ子
作曲 菅美奈子
編曲 青木望
発売 1982年11月
同じポプコン、愛知出身のあみんのあとを追うかのようにデビューしたシンガーソングライターの文学調のデビュー曲
あみん『待つわ』がグランプリを獲得した1982年のポプコンで優秀曲賞を獲得し、続いて同年の世界歌謡祭で見事にグランプリを獲得したのが、今回取り上げる明日香『花ぬすびと』です。世界歌謡祭とは1970年から1987年まで開催されていた、国際色を前面に打ち出した音楽コンテストのことで、日本人がグランプリ(大抵日本と海外、複数曲が受賞)をとると話題になり、その後のヒットに結び付くことも多くありました。たとえば小坂明子『あなた』、世良公則&ツイスト『あんたのバラード』、中島みゆき『時代』、円広志『夢想花』、クリスタルキング『大都会』、アラジン『完全無欠のロックンローラー』などがその後のヒットへとつながりました。そんなステイタスを得た明日香は、1982年11月に同曲でレコードを果たしたのでした。
1982年は前述のようにポプコン出身のあみん『待つわ』がこの年を代表するヒット曲となったばかり。同じポプコン入賞曲で、しかもあみんの二人と同じ愛知県出身ということもあって、『待つわ』のヒットの直後にデビューすることとなった明日香も、そういう意味でもかなり注目をされました。当時のラジオの音楽番組でも、結構ヘビーローテーションで流され、意識しなくても自然と耳に入ってくる曲に『花ぬすびと』はなっていました。
ただし、『花ぬすびと』は誰もに受けるようなキャッチーな歌ではなく、むしろかなり暗い曲といってよいような暗い曲調でした。系統としては、中島みゆきとか五輪真弓とか、そんな雰囲気に近い感じでしょうか。大ヒットの『待つわ』も決して明るい曲ではありませんでしたが、多くの女性が共感できて身近に感じる歌詞が受けたのに対し、『花ぬすびと』は文学的な表現で、身近とは対極的な印象の歌詞でした。ですからもあみんと同じような大ヒットというわけにはいきませんでしたが、それでもオリコン最高14位、売上18.0万枚となかなかの健闘を見せたのです。
《花ぬすびとの伝説が 別れ話のはじまりでした》《あなたは私の膝の上 白河夜船の波枕》《白樺めばえる春の日に 秋の花が欲しくなる》《野分が渡る秋の日に 夏の花を追いかける》など、とにかく表現が独特で、まるで教科書にも登場するような文学作品を朗読しているような趣きのある歌詞だったのです。作詞のすずきゆみ子さんは、どうやら明日香の高校の同級生のようで、他のシングルでも詩を書いているようです。なかなかのオリジナリティですね。そして作曲の菅美奈子というのが、当時の明日香の本名ということで、自身で作曲をおこなっていたわけです。決して大衆受けしそうな楽曲ではないのかもしれませんが、個性と才能にあふれた作品として『花ぬすびと』は音楽ファンに注目をされたということです。
ただし、ポプコン出身者はその後一発屋にもなりやすいという流れも一方でありまして、明日香については、オリコントップ100に入ったのが『花ぬすびと』1曲のみという結果になっています。さらに明日香自身は49歳で亡くなってしまい、ミュージシャンとしてはどこか悲劇性を纏ったような人生になり、それがまた『花ぬすびと』のなんともやりきれない暗さと重なってきたりするわけなのですね。今改めて『花ぬすびと』を聴くと、まち当時とは違った感情を揺さぶられるようなところはあります。最後に作曲家としては、高井麻巳子『メロディ』『うそつき』と、それぞれオリコン1位、2位を獲得したことがあることを付け加えておきます。
