80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.189

 

0909させて  本田恭章

作詞 大津あきら

作曲 鈴木キサブロー

編曲 武部聡志

発売 19825

 

 

 

ドラマでシブがき隊と人気を張り合い、色気のある中性的な魅力で売り出しをかけた新人デビュー曲

 

 「ワクワクさせて」といえば中山美穂の『WAKU WAKUさせて』を普通は思い浮かべると思いますが、実はそれよりも以前に「ワクワクさせて」があったのですね。それが今回とりあげる本田恭章『0909させて』です。“0909”で“ワクワクと読ませます。

 

 本田恭章は当時17歳でしたが、およそ17歳と思えない色気を持ち合わせていました。当時の男性としては珍しい化粧とかファッションとかがインパクト大で、フェミニンで中性的なイメージの強い歌手だったのです。和製デヴィッド・ボウイという異名があったような、なかったような…。本田泰章はそもそもドラマ『2年B組仙八先生』の中で、ナイフで人を刺してしまう印象の強い役柄を演じ、後のシブがき隊の3人らと並び人気を呼んでいたのです。あの美少年は誰だと、デビュー前から話題になり、デビューのための下地はすでに作られていたのですね。ですから、売り出し方としては、ちょっと尖がった感じのアイドル的というあたりを狙っていたように思います。

 

前年の1981年は、沖田浩之、竹本孝之、堤大二郎、ひかる一平などがデビューし、珍しく男性アイドルのデビューが活気づいた年です。それを受けての1982年は、非ジャニーズの男性ソロアイドルがデビューできた、そろそろ最後の時代に差し掛かってきた頃です。ただ後の活動をみると、本人の志向はロック・ミュージシャンの方にあったようで、アイドルとしての売り出し方は果たして本位だったのか、どうだったのでしょうね。

 

 さて『0909させて』ですが、これがなかなか難しい曲なんですよね。かっこよくはあるのですが、歌唱力もいまいちでしたし、ファンは買うでしょうが、この曲いいからといってレコードに手を伸ばす人はあまりいないのではないかと思われます。それでもって、今回きづいたのですが、作詞大津あきら、作曲鈴木キサブローと、ゴリゴリのヒット曲職人じゃないですか!へぇー、そうだったのですね。ただ結果としてオリコン最高27位、売上5.8万枚と、やや中途半端な成績だったかもしれません。それでもって、これが本田恭章のキャリアハイとなるわけで、なかなか大衆に売り込むとなると、本人のキャラクターとしても、楽曲的にも限界があったのでしょうね。

 

 その後は次第にアーティスト志向が強くなっていき、途中からは自身で作詞作曲するようにもなっていくと同時に、セールス面でも徐々に低下。ドラマで俳優としての話題が歌手よりも先行したのにも関わらず、演技の世界には早々と見切りをつけたことからしても、志向はそっちだったのでしょうね。少しだけ時代が早すぎたかもしれません。1980年代終盤以降に、ビジュアル系バンドのボーカルあたりで売り出していたら、もしかしたら、大衆にも受け入れられ、もっとスポットを浴びるようなこともあったかもしれないと思うほど、本田恭章の個性は惜しい素材でした。