80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.180

 

雨に消えたあいつ  伊藤智恵理

作詞 戸沢暢美

作曲 岸正之

編曲 新川博

発売 198711

 

 

 

バラエティやドラマでも活躍したスリムなアイドル“チェリー、秋らしくしとやかでメロディアスな隠れた佳曲

 

 伊藤智恵理はオーディションを経て19876『パラダイス・ウォーカー』でアイドル歌手としてデビュー。この『パラダイス・ウォーカー』は伸びのある彼女の声を生かしたメジャー曲で、アイドルのデビュー曲としては王道の曲でした。結果、オリコン最高位は23位と、デビューとしてはまずまずの位置につけることができました。また伊藤智恵理はテレビドラマ『キスより簡単』にもレギュラー出演するなど並行して女優業にも挑戦。その後はコント番組にもレギュラー出演するなど、当初から幅広いジャンルで活躍をしていました。

 

 伊藤智恵理のイメージとしては。まずスラリとしていて細い、スリムという印象。同じ1987年デビューの女性アイドルとしては、酒井法子、森高千里、伊藤美紀、小川範子、後藤久美子、立花理佐、中村由真、仁藤優子、畠田理恵、BaBe、真弓倫子、守谷香、渡瀬麻紀など多士済々。女性アイドルがソロとして勝負できたおそらく最後の時期になるのでしょう。そしてなんといっても伊藤智恵理の武器は歌唱力で、1980年代の後半あたりになると、アイドルに歌唱力はほぼ不要という風潮の中で、歌がちゃんと歌えるアイドルはかなり貴重な存在となってきます。その中ではきちんと歌を歌える方であった伊藤智恵理は、可愛くてブリブリした曲ではなく、楽曲に関してもしっかりしたものを歌っていこうという意思を感じるものでした。

 

 2ndシングル『トキメキがいたくて』(19878)、そして今回取り上げる『雨に消えたあいつ』はともに作詞戸沢暢美、作曲岸正之による、ちょっと大人っぽい切なげでメロディアスな曲で、伊藤智恵理の歌唱力が生かされた作品になっていたと思います。作曲の岸正之はこのような爽やかで切なげなアイドルソングが得意で、『話しかけたかった』の回で触れていますが、当時はヒットチャートに何曲か送り込んでいる時で、まさに岸正之らしさの発揮された曲でした。ちなみに作詞の戸沢暢美についても『話しかけたかった』で紹介しています。

 

 『雨に消えたあいつ』はタイトルから想像できるように、雨の中での失恋を歌った傷心ソングです。サビから始まる《December Rain 雨に消えたあいつ》のフレーズが物悲しさを誘い、冬の雨の中で傷ついた心を伸びのある声で歌いあげ、なかなかの佳曲に仕上がっているのです。決して派手ではないですが、クオリティは高い作品に仕上がり、オリコンでは前作の最高25位に続く22位。もう少しでトップ20というところで、3曲続けて20位の壁にぶつかったというところでしょうか。

 

 ただ新人アイドルの正念場はデビュー2年目から、結果順位としてはこの22位がキャリア最高で、1988年の4thシングル以降は、48位、59位、73位とその順位を落としていくことになります。1987年組では酒井法子、立花理佐、BaBeといったように、元気な明るさを前面に出していたアイドルがチャート上位に食い込んでおり、バブル全盛に向かいに浮かれている世の中で、伊藤智恵理のやや落ち着いた雰囲気はあまり求められていなかったのかもしれませんね。その後も芸能活動を続けていきますが、やがてこの世界から離れていきます。ただ最近、「あのアイドルは今」的なテレビの番組で、元気なお姿を拝見することができて、とても懐かしく感じられました。