80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.175

 

大迷惑  ユニコーン

作詞 奥田民生

作曲 奥田民生

編曲 ユニコーン、笹路正徳

発売 19894

 

 

 バンドブームの中から頭角を現した、変幻自在の実力派バンドが目をつけたテーマは“単身赴任

 

 雨後の筍のごとく次から次へと新しいバンドたちが現れ、そのうちのまたいくつかが頭角を現してきた80年代終盤、その頭角を現したバンドのひとつがユニコーンでした。1987年にアルバムデビューしたユニコーンにとっては、この『大迷惑』が最初のシングルでしたが、これが強烈なインパクトを与え、いきなりオリコン12位、売上11.9万枚の実績を上げたのです。そしてこれにより実力派人気バンドへ上り詰めていく第一歩を踏み出したわけです。

 

 この『大迷惑』はまず歌詞が印象的で、単身赴任になったサラリーマンの悲哀が物語風に綴られていまして、ラブソングや青春応援歌であふれる多くのバンド楽曲の中では、かなりの異彩を放っていました。さらにボーカルの奥田民男がまた秀逸で、その悲哀に満ちた物語が進行するにしたがい、感情を抑えられなくなっていくように、取り乱した感じで盛り上がっていくのです。奥田民生のボーカルは、曲によってもかなりその歌い方が変わっていき、この曲のような大熱唱もあれば、力が抜けたような気怠い感じで歌う曲もあって、そのあたりの変幻自在さがまたユニコーンの魅力であったともいえるのではないでしょうか。

 

 さて少し話はずれましたが、この『大迷惑』は前述のように、とにかく歌詞が異色です。まずは《町のはずれで》《夢にまで見たマイホーム 青い空》《エプロン姿のおねだりワイフ 日なたぼっこはバルコニー》…と、マイホームを手に入れて幸せいっぱいの様子が冒頭で歌われます。しかしその直後、突然に状況が変わり、《突然忍び寄る怪しい係長 悪魔のプレゼント》《32か月の過酷な一人旅》と転勤命令が下るわけです。サラリーマンの宿命といえばそれまでなのですが、マイホームを建てたばかりということもあり、単身赴任も致し方ないところ。《この悲しみをどうすりゃいいの》《町の灯潤んで揺れる 涙涙の物語》と、悲しみに打ちひしがれて前半が終わるのです。

 

そこからは場所を転じ、転勤先での物語。《枕が変わっても やっぱりすること同じ ボインの誘惑に出来心》と、さんざん家族との別れを悲しんでいたくせにこれかよ、という展開になっていくのですが、次第に言っていることが支離滅裂になっていきます。《逆らうと首になる マイホームボツになる 帰りたい 帰れない 二度と出られぬ蟻地獄》と、抱えているローンのことを考えると、会社の命令に背くこともできず、ジレンマに陥っていくわけです。ここからはもう感情的になって取り乱していく様子が歌詞に表れていて《君がカンイチ 僕はジュリエット》と二重の交錯(相方があべこべになって男女も逆転)をみせたあと、《君は誰 僕はどこ あれは何 何はアレ》と、言っていることが支離滅裂になって、曲は終わっていきます。

 

単身赴任の悲哀に目をつけて歌にするアーティストなんて、まずほかにはいないでしょう。この一曲のヒットで、ユニコーンはどこかほかのバンドとは違うという印象を植え付けることに成功し、90年代に突入してから、さらに意表をつく作品を発表していくことになるのです。