80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.160

 

失恋ライブラリー  紘川淳

作詞 安井かずみ

作曲 木森敏之

編曲 戸塚修

発売 19864

 

 

 

今や大学教授になったアイドルが残したたった2枚のシングルのうちの1枚、女子高生感いっぱいの文系女子高生の失恋ソング

 

 紘川淳は1986年『失恋ライブラリー』で歌手デビュー、同時期に人気ドラマ『セーラー服通り』にも出演し、翌1987年にはNHK朝の連続テレビ小説『チョッちゃん』にも出演するなど、アイドルとして売り出されました。個人的にはルックスが結構タイプで、実はこのデビューシングル『失恋ライブラリー』も買ってしまいました。そんな1枚も加わって、この『失恋ライブラリー』はオリコン最高26位、売上3.1万枚という実績を残しました。

 

 決して上手な歌ではなかったですが、図書館を舞台にした女子高生らしき少女の切なげな失恋ソングと、紘川淳の不器用そうな歌い方がマッチして、アイドルのデビュー曲としてはちょっとしたいい曲にはなっていました。作詞が安井かずみ、作曲が木森敏之といった組み合わせが、デビューアイドルの選択としてはちょっと渋い印象ですね。安井かずみは『愛、おぼえていますか』の回で取り上げていますが、女性だけあって、やさしい印象の歌詞を多く残しています。作曲の木森敏之は多くのヒット曲を残している作曲家で、『サンセット・メモリー』の回で提供曲を紹介してあります。この『失恋ライブラリー』は曲もいいのですが、やはり歌詞でしょうね。紘川淳自身のイメージにとてもあったものに仕上がっていたと思います。

 

 曲の始まりでは《いつもなら笑い声と 友だちに囲まれて あの人を意識しながら クラスの前で待っていた キスした昨日のことがまだ 胸から覚めないの》と、この女子学生は好きだった「あの人」と、ようやくキスにまでこぎつけて、その余韻でまだドキドキしている頃だろうと、そんな歌詞になっています。しかしその直後《それなのにあの人 ヘミングウェイを返す間もなく誰かと 真っ赤なモーターバイク 二人を乗せて 風のように消えていったの》と、別の女性とバイクで二人きりで消えてしまう急展開。昨日キスしたばかりの相手を置き去りにして、別の女と二人きりとは、とんでもない遊び人なのでしょうか。「ヘミングウェイ」というワードが内気な文系少女を想像させて、これがまたいいですね。

 

二番では《わたし今 ノートを丸めて ひとり静かなライブラリー そこなら誰にも見られずに 泣けちゃう 思い切り》と、図書館で一人泣いているわけですよ。たった一日で失ってしまったはかない恋。《いつでもあの人 自由な生き方 好きだと話していたから》と、彼は一人の彼女に縛られない自由奔放な人なんだと、自ら慰めているのがまた意地らしいといいますか、そもそも叶うはずのない恋だったと諦めているわけですね。そして《ステンドグラスの 失恋ライブラリー》ということで、夕暮れの日差しがステンドグラス越しに差し込んでいるような、ちょっとクラシックな感じの建物の図書館で、一人泣いている映像で締めくくられるのです。あの人がバイクに乗っているということは、中学生ではなく高校生でしょう。当時の紘川淳とこの詩の中の内気な文系女子高生がかぶってくることもあって、この曲は好きでしたね。

 

この後もう1『恋景色』(19868)というシングルを出しますが、こちらはやや大人っぽい曲調になっています。ただたった数か月経っただけなのに、もうこの曲はオリコンのトップ100にも入らなくなってしまうのですよね。それでかどうかわかりませんが、結局2枚のシングルレコードを出して、早々のうちに紘川淳は芸能界に見切りをつけて去っていきました。ただその後の人生がなかなか驚きで、なんと学問の道を進んで、大学教授に上り詰めるのです。それも実は私の母校にあたる大学で教鞭をとられているということで、その結果からすると、さっさと芸能界に見切りをつけたということは、正解だったということなのでしょうね。いずれにせよそうやってご活躍されているということは、レコードを1枚持っていた身からすると、うれしい気持ちになりますね。