80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.151

 

恋ほど素敵なショーはない  岩崎良美

作詞 売野雅勇

作曲 梅垣達志

編曲 大村雅朗

発売 19831

 

 

 

姉宏美の背中を追いながらも、独自のエレガンス路線で我が道を行く妹良美の中期の佳曲

 

 どうしてもお姉さんの宏美と比較されてしまうのは姉妹歌手の運命でしょうから仕方ないのですが、大ヒット曲を多数世に送り出した岩崎宏美に比べて、岩崎宏美はやや不憫な感は否めません。ようやく『タッチ』(19853)という誰もが知るヒット曲を出せたのはデビュー6年目のこと。しかもこの『タッチ』ですら、24.7万枚を売上げながらもトップ10圏外の12位。そこから初めてトップ10入りしたのが『愛がひとりぼっち』(198510)の最高10位で、これが今のところ生涯唯一のトップ10入りシングル。お姉さんの雰囲気とはまたちがった目のぱっちりしたルックスは可愛らしかったですし、歌唱力ももちろんあったのですが、お姉さんのそれが抜群すぎて目立たないという不運で、認知度のわりにヒットに結び付かないという状況が長く続いていたのです。

 

 それでも楽曲の質は高く、特に1981年から1984年あたりのおしゃれでエレガントな路線はなかなか好評でして、万人受けするキャッチーな曲ではないものの、味わい深く、他のアイドルにはない岩崎良美ならではの独自の路線をいっているような印象はありました。そんなおしゃれでエレガントな路線の中でも、“ロングタイトル3部作”(と勝手に私がまとめているだけですが)の中でもっともセールスの良かった『恋ほど素敵なショーはない』を今回ピックアップしてみました。“ロングタイトル3部作とは『化粧なんて似合わない』(198210)、『恋ほど素敵なショーはない』(19831)『ラストダンスには早過ぎる』(19834)3曲ですが、まずタイトルからしておしゃれな感じがしませんか?実際に楽曲もそれぞれおしゃれなのですが、その中でも特にしゃれているのが『恋ほど素敵なショーはない』なのです。売上も『化粧~』が2.7万枚、『ラストダンス~』が2.0万枚に対して、『恋ほど~』が7.2万枚と、前後の売上が低調な中では、実はセールス的にもかなり健闘していたのです。

 

『恋ほど素敵なショーはない』は、作詞に当時売り出し中の売野雅勇を初めてシングルに起用し、作曲は梅垣達志。それほど業績のある作曲家ではないですが、この曲を聴くとそのセンスの良さをうかがい知れます。ちなみにChar『気絶するほど悩ましい』、北原佐和子『マイ・ボーイフレンド』などが提供曲にあります。その梅垣達志が作曲した『恋ほど素敵なショーはない』は、売れ線のキャッチーなメロディーを目指すというよりも、おそらく岩崎良美の目指す路線に合った優しくて優雅でおしゃれな雰囲気を作り出すことを第一の目標に練られた楽曲でしょう。歌詞の内容は、恋の幕切れをミュージカル・ショーの終幕に見立てたものになっていて、サビはなんと英詩になっています。なので、普通に聴いているだけでは何を言っているのかわからないのですが、それがまた外国語の舞台でも観ているような雰囲気にもなって、このあたりがとにかくおしゃれなのです。そして唯一聴きとれる《musical musical》のところは、男性コーラスの効果もあって、もはやうっとりしてしまうほど。歌詞とメロディー、そして岩崎良美の歌唱が見事に調和して、異空間に誘われているような、そんな気分にさえなってしまうのです。当時、多くのライバル歌手たちの狭間をゆくようなこのエレガンス路線は、大ヒットには恵まれなかったものの、岩崎良美の歌手としての存在感は示すことができたのではないでしょうか。

 

その後はシンプルな歌謡ポップス路線に回帰していき、『タッチ』のヒットに繋がっていくわけです。今、懐かしの歌特集などで出演したときに岩崎良美が歌うのは、当たり前のように『タッチ』だけなのですが、『恋ほど素敵なショーはない』のような地味な名曲が時間の経過の中で埋もれてしまうことも寂しい気はします。

 

最後に、岩崎良美のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。

1 恋ほど素敵なショーはない 

2 ラストダンスには早過ぎる 

3 プリテンダー 

4 赤と黒 

5 月の浜辺 

6 化粧なんて似合わない 

7 愛はどこへ行ったの 

8 涼風 

9 あなた色のマノン 

10 どきどき旅行 

=80年代発売