80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.145
バカンスはいつも雨 杉真理
作詞 杉真理
作曲 杉真理
編曲 杉真理
発売 1982年10月
堀ちえみの出演する可愛らしいグリコのチョコレートのCMソングとして人気を呼んだ杉真理唯一の10万枚ヒット曲
当時、最初に「杉真理」の活字を見たときは女性だと思っていましたが、列記とした男性「まさみち」さんです。杉真理は1977年にデビュー、ソロアーティストとしてのヒットにはしばらく恵まれませんでしたが、1982年発売の「NIAGARA TRIANGLE Vol.2」で佐野元春、大瀧詠一とともに制作に関わることとなり、音楽ファンの中での知名度を上げていくことになりました。それ以外にも、他のミュージシャンとのかかわりが強く、歌も顔も知らないけれど名前は知っている、そんなミュージシャンの典型的な存在が杉真理だったと記憶しています。
そんな中、突然杉真理の曲が連日流れるようになったのが、まさにこの『バカンスはいつも雨』でした。このシングルは杉真理として8枚目のシングルになるのですが、それまで一度もオリコントップ100に登場することがなく、一般の人が杉真理の歌を耳にする機会はほとんどなかったのですが、この曲がグリコのCMに起用されたことで、初めて「杉真理って、こんな声でこんな曲を歌っているのか」知ることとなった人が多かったのではないでしょうか。かくいう私もその一人です。
CM自体の出来栄えもよくて、しかもメジャーなメーカーであるグリコのCMということは大きかったでしょう。当時からグリコは積極的に人気アイドルをCMに起用していましたが、『バカンスはいつも雨』が採用されたCMに出演していたのはデビューしたばかりの堀ちえみ。これがまた実にキュートな映像に仕上がっていて、雨の駅舎の前でセーラー服姿の堀ちえみが赤い傘を差しながら、好きな男の子が帰ってくるのを、チョコレートを食べながら今か今かと待っているという、なんとも意地らしくも微笑ましい光景なのです。そしてこのCMの映像と杉真理の曲が見事にマッチしていて、このあたりが絶妙なのです。歌詞の《赤い傘ぬらす雨(レイン) ふるえる胸でラブレター》と、堀ちえみのさす赤い傘の映像がリンクしていて、ここの部分だけで一気に観ている者の心をつかんでしまうのですよね。歌詞の内容自体、思うようにはならない片思いを、これまた思うように晴れてくれない天気にかけて歌った切なくも可愛らしい歌で、きっと多くの青春諸君の気持ちをとらえたのでしょう。オリコン最高23位ながらも、売上枚数10.3万枚と、前にも後にも杉真理のシングル曲としては唯一の10万枚超えのヒットとなったのです。同時期に堀ちえみが出した4枚目のシングル『とまどいの週末』(1982年11月)も売上11.4万枚と初めて10万枚を超えてきたので、このあたりは相乗効果があったかもしれませんね。
さて杉真理ですが、この後も自身のヒットシングルこそなかったものの、多くのアーティストへ楽曲提供を行っていくことになります。中でも有名なのがCMでよく耳にした「ウイスキーが、お好きでしょ」ですね。知名度のわりにヒット曲がないという印象の杉真理ですが、自ら積極的に前面に出てパフォーマンスするというよりは、どちらかというと音楽に関する職人的な要素の強いアーティストだといえるのかもしれません。