80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.136
横恋慕 中島みゆき
作詞 中島みゆき
作曲 中島みゆき
編曲 船山基紀
発売 1982年9月
軽妙な歌い回しと、中島みゆきとしては明るいメロディの中にも、失恋女の未練と諦めが繊細に描かれた一曲
長期に渡って、ヒットチャート上位に作品を送り込んできた中島みゆき。1970年代の『わかれうた』(1977年9月)、1980年代の『悪女』(1981年10月)、1990年代の『空と君のあいだに』(1994年5月)、『旅人のうた』(1995年5月)、2000年代の『地上の星』(2000年7月)と、それぞれの年代でオリコン1位を獲得。また2010年代になっても、1位こそないものの『麦の唄』(2014年10月)が5位ということで、10年ずつを一区切りにすると、実に半世紀の間ヒット曲を出しているということになるのです。ただ出す曲出す曲すべてヒットするというわけではなく、ポイントポイントで時代にマッチして、人々の心に刺さるような佳曲を産み出してきたという結果の積み重ねが、今に繋がっているということはいえるでしょう。
そんな中島みゆきですが、一時、出す曲出す曲すべてがシングルチャートのトップ10に入っていた時期があります。それが1981年10月発売『悪女』から、1985年12月発売の『冷たい別れ』までの7曲、4年間です。『悪女』のヒットによりアーティストパワーが高まり、中島みゆきの名前だけである程度セールスを上げることができる、そんな時期に出した一曲が『横恋慕』だったのです。
中島みゆきという歌手は、曲調によって歌い方も極端に変えてくるところがあって、『時代』(1975年12月)や『糸』のようにしっとりと歌い上げたり、『わかれうた』のようにどこか投げやりな感じで歌ったり、或いは『浅い眠り』(1992年7月)や『空と君のあいだに』のように強く重く響かせてみたり、『悪女』『誘惑』(1982年4月)のように力を抜いてさらりと流してみたりと、実にいろいろな歌い方で歌を演出してくれるのですが、この『横恋慕』に関しては軽妙でどこかコミカルな味わいのある歌い方で聴かせてくれています。
さて『横恋慕』の歌詞ですが、簡単に言うと、彼女がいる男性に恋してしまった女性が、気持ちに区切りをつけようと、彼女と過ごしている男性に電話をする様子と気持ちを歌った内容になっています。《わるいけど そこで眠ってるひとを 起こしてほしいの 急いでるの 話があるの》と最初のフレーズで、好きな相手の彼女さんに電話をかけている状況が示されます。そして《夜更けでごめんね 泣いててごめんね みじかい話よ すぐにすむわ さよならあなた》と別れを告げる電話であることも分かります。さらには《これっきりでよすわ 一度いうわ 好きですあなた》と、好きな気持ちを伝えていることも判明していくわけです。《長い髪を三つ編みにしていた頃に めぐりあえればよかった 彼女よりもう少し早く》という言葉からは、出会ったときにすでに彼女がいたということが想像され、それゆえ好きでありながらも、気持ちを伝えることができなかったでしょう。気持ちの整理をつけるために、好きと伝えてから消えたい、せつなくも健気な女ごころといったところでしょうか。
一方で、この女性のちょっとした意地悪心が、ユーモアをもって描かれているところもあって、《夜明け前のバスであなたの住む町へ 着くわと告げれば おどろくあなたの背中見える》の直後に《うそですごめんね じゃましてごめんね》となるわけで、ただでは引き下がらない的な意地が垣間見れらたりもします。このあたりが、個人的にこの曲を好きな要因ですかね。
『横恋慕』はセールス的にもまずまずの成果をあげ、オリコンでは、『悪女』の1位、『誘惑』の2位に続き、この曲も最高2位を獲得、売上は26.5万枚という実績を残しています。このあたりは、前述のように新曲を出せば必ずトップ10入りするという時期に入っていて、勢いがありました。ただ、この後は一旦セールス的には落ち着いてきて、それから90年代になって、ミリオンセラー連発と、再び爆発を見せていくことになります。