80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.123

 

今夜はANGEL  椎名恵

作詞 ジム・スタインマン 日本語詞 椎名恵 補作 三浦徳子

作曲 ジム・スタインマン

編曲 戸塚修

発売 19861

 

 

 

テレビドラマ「ヤヌスの鏡」の主題歌としてヒット、迫力満点の女性ボーカルに圧倒される、人気アメリカ映画の作中曲のカバーソング

 

 椎名恵はこの『今夜はANGEL』がデビュー曲(198611)でしたが、新人とは思えぬ迫力あるボーカルと、堂々とした歌いっぷりで、いきなりオリコン最高7位、26.4万枚のヒットとなりました。そもそもこの曲はアメリカ映画「ストリート・オブ・ファイアー」(1984年公開)の作品の中で使われていた『Tonight Is What It Means to Be Young』のカバー曲です。映画は大ヒットし、日本でも多くの支持を得たのですが、1980年代は特にこうしたアメリカ映画からヒット曲が出ることが多かったように思います。「フットルース」「フラッシュダンス」「ネバー・エンディング・ストーリー」「ゴーストバスターズ」などは、映画を観ていなくてもそのテーマ曲は知っているという人も多かったのではないでしょうか。ですから、それだけでも強力だったのですが、さらに日本のテレビドラマ「ヤヌスの鏡」の主題歌にも使われたとあって、まさに鬼に金棒。椎名恵は実に恵まれたデビューを果たしたのです。

 

 その「ヤヌスの鏡」は当時人気の大映ドラマの一作ということで、これまた注目の作品。主演は杉浦幸。現実離れした激しい展開が売りの大映ドラマに、ドラマティックな『今夜はANGEL』はぴったりで、作品を大いに盛り上げたのです。そもそも大映ドラマの主題歌はパワー系の女性歌手が担当することが多く、麻倉未稀、葛城ユキ、小比類巻かほるあたりが歌ったりしていましたが、椎名恵もその流れにある歌手と言っていいでしょう。このあと「花嫁衣裳は誰が着る」でも椎名恵が主題歌『愛は眠らない』を歌っていて、大映ドラマとの相性が良かったのでしょうね。

 

 前述のように『今夜はANGEL』のアレンジはドラマティックに作られていて、まずは嵐の前の静けさのように静かに入るイントロ、そしてゆっくりじっくり歌うワンコーラス、それが終わるといきなり何かがこれから始まるのを示唆するように音も賑やかになっていきます。ボーカルにも力が入っていき、次第に盛り上がりを見せ、サビに突入。すると今度は嵐が去った後のような清々しさを覚えるアレンジに変わっていき、とにかく展開の浮き沈みが激しいのです。ひとつのドラマをアレンジとボーカルで表現しているような、壮大といっても過言ではない表現で、きっとそれが受けたのでしょう。歌詞については、この手の海外ヒット曲のカバーの場合、意味よりも音感や耳障りが大事で、そのあたりはうまくこのメロディーに乗る日本語部分と、英詩を無難に織り交ぜてといったところなのですが、それよりも何よりも、この曲はアレンジとボーカルの勝利でしょう。

 

 椎名恵はその後しばらく洋楽のカバー曲を4枚めまで続け、5作目以降はオリジナル曲、さらには自身により作曲された作品を歌っていくことになりますが、なかなかヒットには結びつきませんでした。それでも歌手活動は続けているようで、HPなどでその活動の様子をうかがい知ることができます。