80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.115

 

涙の太陽  田中美奈子

作詞 湯川れい子

作曲 中島安敏

編曲 関根安里

発売 19897

 

 

 

1億円の保険をかけた瞳が話題になるほどの強力な目力、しかしデビュー曲としての選択は意外にも歌い継がれてきたカバー曲

 

 田中美奈子のイメージとしては、モデルまたはグラビア出自の女優で、とりあえず歌も出してみた的なところがどうしてもあるのですが、実際には「ミスマガジン」準グランプリだったり、「モモコクラブ」のメンバーだったりと、意外とアイドル的な流れの中で出てきた人なのですよね。そう考えると、歌手としてもデビューするというのは、自然な流れだったのでしょうね。同じ1989年には「君の瞳に恋してる!」や「雨よりも優しく」などのトレンディドラマなどにも出演し、歌手としても女優としても、両方で売出しをかけていたような状況でした。

 

 田中美奈子という人はとにかく、今でいう目力がとにかく強い印象で、そこを売り出そうということで、事務所が瞳に1億円の保険をかけたということも、売り込むための話題性の一つとして、とりあげられることも多かったです。瞳がどうなったら、1億円の保険金が入るのでしょうか?失明?結膜炎?よく分かりませんし、本当か嘘かも怪しく思えたりもしましたが、とにかく印象的な目を強調するという意味では、成功したといっていいでしょう。

 

 そんな田中美奈子がデビュー曲として選んだのは、1965年にエミー・ジャクソンによって歌われ、その後も青山ミチ(同時期の競作)、安西マリヤ(これが一番有名)、サンディー&ザ・サンセッツなどによって歌い継がれてきた昭和のカバー曲でした。平成に変わったばかりの1989年、時代はバブル絶頂期、トレンディドラマにも出演する田中美奈子ですから、当時旬のミュージシャンの曲や洋楽カバーなどで攻めてくるのかと思いきや、昭和30年代のカバー曲ですから、ちょっと意外な気はしました。

 

 もっとも『涙の太陽』時代は決して大人しい歌ではなく、むしろ歌詞にもあるように《ギラギラ太陽が燃えるよう》な、情熱的な歌ではありましたので、アレンジを変えれば、まったく古臭さを感じない曲ではありました。若い人には覚えやすい曲でしたし、一方でおじさんたちの気を引くこともできるということで、当時流行のボディコン姿で、セクシーに踊りながら歌う姿は、それなりにインパクトのあるものでした。歌もわりと無難にそつなくこなせていたので、売上面でも健闘し、オリコン最高18位、5.2万枚の実績を残したのでした。

 

 今からすると、歌手というイメージはあまり強くない田中美奈子ですが、実はデビューから5枚目のシングルまではすべてオリコントップ20入りしているという実績を残していて、最高順位は5枚目『左手で誘惑TONIGHT12位、枚数では3枚目『夢みてTRY7.5万枚(この曲は小室哲哉が作詞・作曲)。デビュー曲よりも成績を上げているわけですから、話題性だけに頼ってリリースしたというわけでもないのですよね。このあとは女優業に軸足を置いていくことになり、今となっては印象としても女優としての田中美奈子の方が強いのですが…。

 

 見かけが派手なので、当時はどこか穿った目で見ていた部分は少なからずあったのですが、実は堅実にキャリアを積み重ねてきた方なのですね。スキャンダルもなく、結婚してお母さんにもなりながら、地道に仕事も続けていて、はっきりメイクでボディコンに身を包み♬ギーラギ~ラ太陽が…と歌っているデビュー当時のイケイケどんどん的な姿は、やはり戦略だったということですね。見事です。