80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.108
ティアドロップ探偵団 イモ欽トリオ
作詞 松本隆
作曲 細野晴臣
編曲 細野晴臣
発売 1982年3月
大ヒットのデビューシングルに隠れがちな、良い子悪い子普通の子による企画ユニットのセカンドシングル
イモ欽トリオはテレビ番組「欽ドン!良い子悪い子普通の子」に出演し、コントで“良い子”を演じていた山口良一(ヨシオ)、“悪い子”を演じていた西山浩司(ワルオ)、“普通の子”を演じていた長江健二(フツオ)の3人が組んだ企画ユニットで、そのデビュー曲『ハイスクール・ララバイ』(1981年8月)が社会的な大ヒットとなり、売上104.3万枚を記録しました。私自身、中学校の応援合戦でこの歌を3人組で踊った思い出があり、ちなみにヨシオ役を務めました。とにかく、欽ちゃんの番組から派生したイモ欽トリオは、一種のアイドル的な存在となり、これ以後、バラエティ番組からの企画ユニットによる音楽界への進出の先駆け的な役割を果たすことになりました。そのあたりは同じ欽ちゃんの番組から派生したおめで隊の回でもちょっと触れています。
その大ヒット曲『ハイスクール・ララバイ』の後を受け、その勢いのままでリリースしたのが『ティアドロップ探偵団』です。作詞が松本隆、作曲と編曲が細野晴臣というコンビは『ハイスクール・ララバイ』と同じですが、バラエティ番組の企画で、いわば半分冗談で出したような楽曲に松本隆と細野晴臣が詩や曲を提供しているわけですから、冗談半分と記したものの、実は結構本気度は高かったのかもしれません。特に細野晴臣については、「イモ欽トリオ」の命名自体が、たのきんトリオとYMOからとったということなので、ある意味必須条件だったともいえそうです。実際『ハイスクール・ララバイ』はYMOによりもたらされたテクノポップ風のアレンジも特徴になっていて、大ヒットのひとつの要因になっていましたからね。
『ハイスクール・ララバイ』では、学校や通学バスを舞台にした、冴えない男子の片想いを歌っていましたが、『ティアドロップ探偵団』では、振られた相手を尾行して、デート現場を覗いている男子のせつない恋心を歌っています。ラブラブで浮き浮きな楽しい曲ではなく、2曲続けて、もてない男子の成就しないせつない恋を、どこかおどけて歌っている作品なのですね。結局、女の子にもてて恋が実ってしまったら、ヨシオでもワルオでもフツオでもなくなってしまうのでしょうね。だから応援したくなってしまうということもあるでしょう。
『ティアドロップ探偵団』なんかは、歌の中で、今だと「ストーカー」と言われてしまいかねない行為をしてしまっています。《桃色のカーディガン ルーペを片手に尾行する》《駅前のカフェテラス デートの現場をのぞいた》と、タイトルにあるように探偵まがいの行為で、恋する彼女を離れた場所から監視しているわけです。ただその探偵気取りの様子がどうみても喜劇的で、尾行に必要に思えないルーペを持って歩いたり、つけひげで変装したり。決定的なのは間奏のセリフで「明智君」だの「20面相」だの「小林君」だのが出てきて、このあたりは完全に遊んでいます。まじめとおふざけのバランスこそが、イモ欽トリオの楽曲の肝だったといえるのでしょう。
『ハイスクール・ララバイ』があまりに売れ過ぎてしまったことで、『ティアドロップ探偵団』について語られることはほとんどないのですが、実はこの曲もオリコン最高6位、売上19.7万枚と、チャートのトップ10入りを果たしているのです。ただイモ欽トリオのトップ10入りはここまでで、もう1曲『ティーンエイジ・イーグルス』(1983年1月)という3枚目のシングルが出てはいるものの、こちらは最高39位と大きくランクダウン。もっともメンバーの長江健二が脱退し、後藤正に変わっていて、時間の経過とともに飽きられた面とともに、やはりイモ欽トリオは長江健二の人気に負うところが大きかったのでしょうね。