80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.101
あまく危険な香り 山下達郎
作詞 山下達郎
作曲 山下達郎
編曲 山下達郎
発売 1982年4月
ままならない大人の愛に苦しむアダルト路線、『クリスマス・イブ』『RIDE ON TIME』に続く達郎ナンバー3ヒットシングル
1975年にシュガー・ベイブのメンバーとしてデビューした山下達郎ですが、1979年にソロシングル『LET’S DANCE BABY』を発売。そして最初のヒット曲は1980年5月発売の4枚目のソロシングル『RIDE ON TIME』で、オリコン最高3位、売上41.7万枚という実績を残し、一躍知名度をあげました。カセットテープのCMソングとして起用されたのですが、山下達郎自身も出演し、まるで『RIDE ON TIME』のPVみたいな出来栄えで、これが見事にはまったのでしょうね。その次のソロシングル『My Sugar Baby』はオリコン90位でしたが、さらにその次のソロシングルとして発売されたのが『あまく危険な香り』でした。
この曲は同名のテレビドラマの主題歌として起用されたこともあり、オリコン最高12位ながら、23.6万枚を売上げ、山下達郎のシングルとしては、お化けシングル『クリスマス・イブ』、前述のブレイク曲『RIDE ON TIME』に続く3番目に多い売上を残したのです。この『あまく危険な香り』が達郎ナンバー3ソングというのはちょっと意外でして、決してキャッチーな曲ではないですし、爆発力もなかったのですが、聴けば聴くほど味わいが増す曲として、じわじわ売れていった結果なのでしょうね。印象では『GET BACK IN LOVE』(1988年4月/最高6位・18.4万枚)、『Endless Game』(1990年4月/最高5位・18.0万枚)、『さよなら夏の日』(1991年5月/最高12位・18.5万枚)あたりが売れているように思ったのですが、『あまく危険な香り』だったのですね。
私自身も、この曲が売れている当初は、あまりこの曲をいいとは思えず、カセットテープに録音したシングル・コレクションを聴くときも、たまたま一本のカセットの最後に『あまく危険な香り』が録音されていたため、この曲だけ飛ばして、早送りしてしまうということもままあったのです。ただ後になって聴くと、この曲の良さが分かってくるのですよね。もちろん『クリスマス・イブ』や『RIDE ON TIME』といった分かりやすく、誰もが惹かれてしまうキャッチーなメロディーの曲も良いのですが、『あまく危険な香り』の、ままならぬ愛にもだえ苦しむようなけだるいアダルトな感じも、捨てがたいのです。
歌詞自体も抽象的で、物語とか背景とかが明確に示されているわけではありません。《あなたの思わせぶりなくちづけは 耐え切れぬ程の苦しさ》って?思わせぶりにくちづけをする関係って?と、いきなり大人の恋の世界に引きずり込まれます。《心は暗がりの扉の影で 報われぬ愛の予感に震える》って、結ばれることのない愛と分かっているだけに、苦しいんでいるのでしょうか。《いちどは傷ついたはずの心で 信じ合えるには あまりに悲し過ぎる》って、かつては愛し合っていた?そして裏切りが分かった?《あなたに取り戻す日々はもうない そっと目かくしのふりして 通り過ぎる》が出した結論ということなのでしょう。夏のけだるい暑さの中で聴くと、なんかいい感じに思えてしまうのは、私だけでしょうか。
とにかく、このアダルト路線の曲が一定の支持を得たことによって、前述のような『GET BACK IN LOVE』『Endless Game』といった曲が、大人の恋愛ドラマの主題歌として起用されヒットしていくという流れにも繋がっていきます。今や大御所の山下達郎。テレビには出ない、その一貫とした姿勢もまた、彼のカリスマ的な存在の大きな要因になっているのでしょう。