80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.90

 

サマータイムグラフィティ  TOM★CAT

作詞 TOM

作曲 TOM

編曲 Light house

発売 19854

 

 

 

大ヒット曲の影に隠れがちな、ポプコン出身の個性派バンドによる、青春時代の青臭さを懐かしむようなノスタルジー・ソング 

 

 TOM★CATといわれても、作詞、作曲、ボーカルを務めたTOM以外のメンバーがほぼ思い浮かびません。それだけ、小柄な体に、顔の半分以上を覆い隠すような大きなサングラスがトレードマークのTOMの、デビュー曲『ふられ気分でROCK’N ROLL(198411)を早口でまくし立てるような姿がとにかく強烈なインパクトを与えたのです。

 

TOM★CATは、コンセントピックスやアラジンの回でも触れたヤマハポプコンのグランプリを引っ提げてデビューということで、デビューに関しては恵まれていました。リリースしてほどなく『ふられ気分でROCK’N ROLL』はチャートを上昇していき、オリコン最高4位、売上35.9万枚と大ヒット、テレビのランキング番組にもよく登場し、その特徴的な風貌と共に、一気に知名度をあげたのでした。ただまくし立てるような個性的な曲が、ややもするとアラジンやコンセントピックスと同じようなコミックバンド的なイメージで捉えられる危険性もはらんでいたこともあって、その次のシングルには注目もしていました。

 

そんな中でリリースされた2枚目のシングルが『サマータイムグラフィティ』でして、これが前作とはまた印象の違う、いい感じの曲に仕上がっていたのです。『ふられ気分でROCK’N ROLL』のような強いインパクトのある曲ではないため、大ヒットとはいかなかったのですが、オリコン最高13位、売上13.7万枚というのは、アラジンやコンセントピックスのギャップダウンに比べたら、なかなか健闘したといってもいいのではないでしょうか。

 

歌詞の内容は、青春時代をノスタルジックに振り返るような爽やかなものになっています。青春時代も終わり落ち着いた生活にも慣れてきたような年代になって、みんな一緒に夜通し海で過ごしたあの頃を懐かしんで歌う、歌詞の一つ一つにそんな気持ちがあふれていて、私はとても好きです。《午前3時をまわっても誰もまだ 席をたとうとせずにふざけてた頃は 海が見たいと誰かがつぶやいたなら みんな口笛ふいて飛び出していたね》《海辺ぞいに駐めた車の中で おり重なって眠った朝のまぶしさ》と、似たようなシチュエーションは誰にでも経験があるのではないでしょうか。そんな元気で若かった頃を《いちずで不まじめ みじめで陽気で みんなもろに青くさい想い出》と、客観的に捉えることができる年齢になっているのですね。そんな今を《なりをひそめて それなりに暮らしているのさ》とは表現していて、そこからは、すっかり落ち着いて、おそらくちゃんと定職を持ったり、家族を持ったりしているであろう状況がうかがえます。《沖までクロール きめて行くカップル 水平線こえて 何を見つけるのさ》なんて言い回しもたまらないですね。

 

この曲、遠慮していましたが、大好きです。名曲だと思います。TOM★CATは『ふられ気分でROCK’N ROLL』の一発屋というのが一般的な評価だと思いますが、実はこんないい曲もあるのだぜ、ということを、声を大にしていいたいのです。あくまでも私の個人的な好みでの問題ではありますが…。ですから、本当はこのあとも期待はしていたのですが、セールス的にはさらに落ち込んでいき、なかなか普通に耳にする機会もなくなっていったのは残念です。他の曲を聴いても、TOMには曲をつくるセンスはあったと思いますし、実際他のアーティストに提供することもあったのですが、個性的な少年のような風貌が逆に色物のような印象を与えて、長くアーティスト活動を続けるには、逆にマイナスになってしまったのかもしれません。TOM★CATは1987年には事務所を離れ、自主運営に活動を移していったようです。