80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.85

 

フライディ・チャイナタウン  泰葉

作詞 荒木とよひさ

作曲 海老名泰葉

編曲 井上艦

発売 19819

 

 

 

まさかこんな未来になるとは夢にも思わず、迫力あるボーカルで本格派新人シンガー・ソングライター誕生と思わせたデビュー曲

 

 当時、よくラジオで流れたのが『フライディ・チャイナタウン』で、新進のシンガー・ソングライターとして、泰葉がゲスト出演していたのを覚えています。父親が落語界の重鎮の初代林家三平でしたが、そんな出自はさほど重要ではなかったように思います。作曲を自身が行ったキャッチーなメロディーと、迫力のあるボーカルで、なんとなく耳に残る、そんな曲になりました。オリコン順位こそ69位で、全然売れてないじゃんと思いがちですが、そのわりに売上が5.6万枚と、69位の曲としては異例の実績を残したのです。歌を聴いている限りは、本格的なシンガーという感じで、いい曲が書ければ、今後売れていくのかなという思いは持っていました。

 

 作曲は前述のように自身によるものでしたが、作詞は荒木とよひさが担当。主な作品としては、テレサ・テン『つぐない』『愛人』『別れの予感』『時の流れに身をまかせ』、わらべ『めだかの兄妹』『もしも明日が…。』『時計をとめて』、風見慎吾『涙のtake a chance、柏原芳恵『待ちくたびれてヨコハマ』、南野陽子『ダブルゲーム』、堀内孝雄『恋唄綴り』、桂銀淑『すずめの涙』、芹洋子『四季の歌』などがあげられ、どちらかというと演歌・歌謡曲が中心の活動をしている作詞家でした。この『フライディ・チャイナタウン』もそういえば、どこか歌謡曲の匂いがする作品ではありますね。

 

 異国情緒あふれる夜のチャイナタウンに、どこか不機嫌そうな感じの恋人とともに、ぶらぶらと遊びながら、異国人気分を味わっているというような、そんな歌詞です。ストーリー性で楽しませるというよりは、雰囲気で訴えかける詩で、サビで繰り返され、タイトルにもなっている「チャイナタウン」の周囲と隔離されたような世界観をどう伝えるかに重きを置いています。《真夜中の人ごみに》《はじけるネオンサイン》《踊りつかれていても 朝まで遊ぶわ》《お店にならぶ 絹のドレス》という華やかな喧騒、《肩にぶつかるジンガイ=外人 ウインク投げる》《私も異国人ね》という異国情緒、そんな中で隣を見れば《知らん顔のあなた とまどいのひとコマ》《渋い顔のあなた わがままがいいたい》と不機嫌そうな恋人。時間や国籍の感覚がマヒしてしまうようなチャイナタウンでの一夜を歌いながら、その先に控えている現実を考えたくないという気持ちも垣間見れて、情景も不思議と想像できてしまうのです。

 

 出自の力がどれだけセールスに貢献したかは分かりませんが、実際の記録以上に、この曲が流れているのをよく聴いた印象だけは残っています。ただ、歌手としての泰葉は、あとが続きませんでした。自身の作曲でシングルもコンスタントにリリースしていくのですが、なかなかヒットに結びつきませんでした。2nd『ブルーナイト・ブルー』はデビュー曲と同系統の歌、3rd『水色のワンピース』はメロディー的にはフォークソングに近いバラード曲、4th『ポール・ポーリー・ポーラ』はそれまでにないポップさが加わったキュートな曲と、バラエティにも富んでいますし、わりと耳にすることもあった曲なので、オリコントップ100にも入っていなかったのは意外でした。

 

 その後はご存知のように某落語家と結婚、歌手活動は一切ストップしてしまうことになったのですが、突然の離婚以降は、奇行ばかりが話題になって、変なイメージがついてしまったのは残念です。歌もうまいし曲もかけるのに、そういった能力が消されてしまうのは、なんかとってももったいないとは思うのですが…。