80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.83

 

恋人宣言  堤大二郎

作詞 山口あかり

作曲 森田公一

編曲 大谷和夫

発売 19818

 

 

 

非ジャニーズ男性ソロアイドルが積極的に売り出された最後の時代、新人賞戦線を見据えた大二郎の熱い勝負曲

 

 いつの年からか、男性アイドルといえばジャニーズ、そしてグループと相場が決まってしまったのですが、1980年代初頭には、ジャニーズ、非ジャニーズ問わず、まだソロの男性アイドルが群雄割拠し、その年の新人賞レースに登場していました。それでも通常は、女性アイドルの方が人数としては多いのが通常だったのですが、特に1981年は男性アイドルが目立つ年でした。非ジャニーズの沖田浩之、竹本孝之、堤大二郎、ジャニーズのひかる一平、近藤真彦(デビューは1980年ですが、賞レースの対象年度としては1981)となかなかのメンツ。そんな中で、堤大二郎は19814『燃えてパッション』でデビューしたのです。

 

 「3B組金八先生」第1シリーズに出演し、デビュー前から人気を誇った近藤真彦はそこでの役柄もあってやんちゃなイメージ、同じく「3B組金八先生」の第2シリーズで主要キャストだった沖田浩之は知性的かつ硬派なツッパリのイメージ、同じく「3B組金八先生」第2シリーズに出演していたひかる一平はかわいい系と、デビュー前から知名度のあった3人はそれぞれキャラクター的にも住みわけができていました。一方他のメンバーは、その時点でハンディを抱えていたわけではありますが、その中で竹本孝之はさわやか好青年的な立ち位置で売出し、堤大二郎はキザでナルシストっぽいイメージが売りとなっていました。そのイメージが顕著に表れたのが、2ndシングルの『恋人宣言』だったのです。

 

 当時、週刊誌やテレビのワイドショーなどで恋人宣言のようなことをする芸能人が結構いて、「恋人宣言」という言葉自体がスキャンダラスな匂いをもつ言葉だったのですね。ですから、新人アイドルが新曲として『恋人宣言』というタイトルを持ってくるのは、なかなか刺激的なことだったのです。そして、それが歌えてしまうのが堤大二郎だったのです。デビューしたばかりの竹本孝之やひかる一平には『恋人宣言』は歌えなかったでしょうし、近藤真彦がそんなタイトルの曲を出したら、ファンは卒倒していたかもしれません。まあ、沖田浩之なら「あり」だったとは思いますが…。

 

 そんな『恋人宣言』ですが、詩を書いたのは山口あかり。私の世代が知っているヒット曲はあまりなく、どちらかというと1960年代から1970年代の作詞家といった感じでしょうか。ただ、こと『恋人宣言』に関しては、当時としても一昔前の男どもがつかうような言い回しが、かえって独特の世界観を創り出していて、堤大二郎という歌手の歌う『恋人宣言』に不思議とマッチしているのです。いきなり《君に決めたよ 恋人は》で始まり、《ごらんよ 海辺に陽が昇る 裸足が似合うぜ 踊るには》《さっき出逢って もう夢中 キュンキュン胸が騒ぐんだ》《君かわいいね 誰よりもいいね》《しっかりこの僕つかまれよ 赤いバイクで突っ走れ》《好きなんだ 熱いんだ》とまあ、セリフとして聞いたら恥ずかしい言い回しのオンパレード。歌でなければ、当然言えないような言葉ばかり。でも、そんなことを真面目に歌えてしまうのが、堤大二郎だったのですね。最初から知名度のある近藤真彦や沖田浩之に対抗するには、真正面からぶつかっても太刀打ちできないと考えたか、こんなキザでナルシストっぽい路線が固まってきたのが、この『恋人宣言』だったということです。

 

 ちなみに作曲は森田公一。70年代には多くのヒット曲を提供してきた作曲家ですね。代表曲としてはアグネス・チャン『ひなげしの花』『小さな恋の物語』、天地真理『ひとりじゃないの』『恋する夏の日』、新井満『ワインカラーのときめき』、キャンディーズ『ハートのエースが出てこない』、桜田淳子『はじめての出来事』『気まぐれヴィーナス』、森田公一とトップギャラン『青春時代』、和田アキ子『あの鐘を鳴らすのはあなた』などがあり、80年代にも石野真子『春ラ!!!、石川秀美『恋はサマー・フィーリング』、河島英五『時代おくれ』があります。そんな独特の世界で勝負をかけた『恋人宣言』でしたが、オリコン最高49位と振るいませんでした。

 

続いて19821月にリリースした3rdシングル『花はおそかった』はカバー曲ではありましたが、これがまた堤大二郎にぴったりのセリフ付きの気障な曲。ただセールス的にはこれもダメでした。どうもこの頃から、ジャニーズ事務所から、他の事務所の男性アイドルに対する攻勢が強くなってきたようで、沖田浩之、竹本孝之ともども、アイドルとしての活躍の場を失っていくことになるのでした。その後堤大二郎は俳優としての活動に専念し、現在に至るわけです。