80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.78

 

MUGO・ん…色っぽい  工藤静香

作詞 中島みゆき

作曲 後藤次利

編曲 後藤次利

発売 19888

 

 

 

セールス的にも跳ねた、工藤静香のヒット曲の中で、唯一といっていいお茶目で可愛らしいアイドルソング

 

 セブンティーンクラブ、おニャン子クラブを経てソロ歌手としてスタート。デビュー曲『禁断のテレパシー』(19878)からオリコン1位を獲得し、2枚目『Again』(198712)3枚目『抱いてくれたらいいのに』(19883)4枚目『FU-JI-TSU』(19886)と、売上枚数もシングルをリリースするごとに自身の記録を更新していき、そしてこの5枚目『MUGO・ん…色っぽい』は、3度目のオリコン1位はもちろん、前作『FU-JI-TSU』の25.3万枚から2倍以上の54.1万枚を売り上げ、セールス的にも大ジャンプのきっかけとなる曲になったのです。

 

 この曲は‘88秋のカネボウキャンペーンソングにも起用され、CMなどで流れる機会が多く、加えてそれまでの大人っぽい雰囲気の歌から一転して、アイドルらしい明るく可愛しい曲調で新しいイメージを打ち出したことで、大ヒットへと結びついたのでした。さらには前作に引き続いての中島みゆきの作詞ということも大きく話題にもなりました。

 

 本来作曲も含めて曲を他の歌手に提供することが多い中島みゆきですが、工藤静香への提供のほとんどが作詞のみというのが特徴的で、『FU-JI-TSU』『MUGO・ん…色っぽい』の後にも『黄砂に吹かれて』(19899)『私について』19909月)、『慟哭』19932月)はいずれも作詞のみの提供でした。では作曲は?というと、工藤静香のシングルについては、後藤次利がほぼ専属の作曲家として働いていたので、そこを他の作曲家に任せるといった選択肢はなかったのでしょうね。デビュー曲から20枚目『あなたしかいないでしょ』(199310)までのシングル曲はすべて後藤次利が作曲をしていたのです。ただし21枚目『Blue Rose』(19943)で作曲・編曲を外れると、そのあとは一切かかわりから外れてしまいます。このあたり、いろいろ大人の事情がありそうですね。そしてそのおかげで、199611月発売の『激情』は、初めて中島みゆきが作詞・作曲の両方を担当したシングル曲となったわけです。

 

 さて、この『MUGO・ん…色っぽい』ですが、中島みゆきだけあって、歌詞の内容はかなり特徴的。好きなあなたに対して、その気持ちをなかなか口に出せない女の子の気持ちを延々と歌ったもので、内気な女性の内に秘めた想いというものがひしひしと伝わってきます。《言いたいことならどれくらい あるかわからなくあふれてる》のに《いざとなると内気になる》。《書いた手紙も しまい込んで 誰も知らない》と、文字に書いて知らせることもできない。だから《少し勇気を出して 視線投げて》みることで《目と目で通じ合う そういう仲になりたいわ》ということなのですね。言葉にしなくても、目だけで気持ちを伝えられるようになったら、どんなにいいのに、そんな可愛らしい気持ちを歌ったものです。気難しそうに歌わなければならなかったそれまでの曲とは違い、笑顔で歌うのが似合うような曲で、そういう点ではアイドルらしい曲だったと言えるでしょう。

 

 ただその後も含めた工藤静香のシングル曲の中では、この『MUGO・ん…色っぽい』のような可愛らしい曲は、かなり異質な感じを受けることは否めません。工藤静香の売りの一つはその歌唱力で、同時代のアイドル歌手の中では、やはりひとつ抜けた存在であったことには違いなく、発売するシングル曲も、その歌唱力を生かせるような曲を選んでいたことには違いないでしょう。バラードもあればロック調の激しい曲もありましたが、ぶりぶりのアイドルにはほとんど手を出していなくて、その中で唯一それに近いのが『MUGO・ん…色っぽい』だったように思います。ただ『MUGO・ん…色っぽい』については秀でた歌唱力やカッコよさよりも、可愛らしさが必要な曲で、工藤静香の良さを引き出すには、この曲のような可愛らしさよりも、しっとり聴かせられる歌だったり、ハードでかっこいい曲だという選択がなされていったということなのでしょうね。

 

それでもこの曲で新しいファンも獲得したことは間違いなく、この後しばらくは、売上枚数も50万枚前後の高値安定で、人気絶頂期を迎えるのです。また、『FU-JI-TSU』から始まった連続1位は『私について』まで8曲連続で獲得。その後人気も落ち着いてきて、売上のやや下降していくのですが、そんな中で自己最高セールを記録したのが18枚目の『慟哭』で、93.9万枚と、もうすこしでミリオンセールスという実績を上げたところに、アーティストとしての力強さも感じました。その後はご存知の通り、キムタクと結婚、出産、子育てを経て、今なお話題を提供し続けているということで、やはり工藤静香は他の替えが利かないスター歌手なのでしょうね。

 

最後に、工藤静香のシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。

1 MUGO・ん…色っぽい 

2 FU-JI-TSU 

3 慟哭

4 一瞬

5 Ice Rain

6 激情 

7 メタモルフォーゼ

8 私はナイフ

9 くちびるから媚薬

10 Again 

=80年代発売