80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.77
悲しきエクササイズ おめで隊
作詞 川村真澄
作曲 椎名和夫
編曲 椎名和夫
発売 1987年2月
ジャニーズのメンバーもいた欽ちゃんの番組からの企画ユニットも、少年隊にもイモ欽にもなれず
おめで隊は萩本欽一の冠番組『ドキドキ欽ちゃんスピリッツ』からの企画ユニットの3人組です。欽ちゃんの番組からは、しばしばヒット曲が生まれていて、イモ欽トリオ『ハイスクール・ララバイ』、わらべ『めだかの兄弟』、よせなべトリオ『大きな恋の物語』、風見慎吾『僕笑っちゃいます』、細川たかし『北酒場』などが番組きっかけでヒットを果たしています。したがって、この曲もうまくいけばヒットするかも、という狙いは当然あったでしょう。
メンバーは、正木慎也(いんき君)、中村亘利(とうちゃん)、奈津あつし(おかし君)の3人で、正木慎也はジャニーズの「少年忍者」に所属し、のちに「忍者」として改めてデビューします。中村亘利も「少年忍者」のメンバーでしたが、こちらは「CHA-CHA」として改めてデビューします。奈津あつしはその後お笑いのフィールドからやがて舞台役者の道を進んでいきます。欽ちゃんお得意の3人組ということで、イモ欽トリオ並みの人気でヒット曲を呼び込むのか、はたまたユニットの名前から、当時人気絶頂の少年隊のパロディ版として注目を集めるのか、そんな期待もあったかもしれません。
そのデビュー曲でもあり、ラストシングルでもあるのがこの『悲しきエクササイズ』です。バラエティ番組からの曲ということで、歌詞もコミカルで、いかにも企画物的な印象の楽曲ではありますが、過去に欽ちゃんの番組からヒットした前述の曲たちも、『北酒場』を除くと、どれもコミカルな曲ですから、当然の成り行きでしょう。それでもってこの曲、作詞が川村真澄なのです。ちょっと意外ですね。久保田利伸『Cry On Your Smile』『You Were Mine』、渡辺美里『My Revolution』、宮沢りえ『DREAM RUSH』、鶴久政治『貴女次第』、松本伊代『サヨナラは私のために』、小泉今日子『Smile Again』、河合その子『JESSY』、小川範子『こわれる』『永遠のうたたね』、今井美樹『野性の風』など、素敵な歌詞のヒット曲がずらりと並んでいる中でのおめで隊『悲しきエクササイズ』なんですから!
歌詞は、中学生の男の子の恋こごろを歌ったような内容です。《放課後のプールサイド 呼びだして 温めた想いを伝えたら》《陸上部グランドならしてた まっ白いくるぶし立ち止まる》《模擬試験 会場一緒ねと だれから習うの? その笑顔》と、まさに中学生の青春です。さらに《ときめきのヒキ算》《とまどいの カケ算》と勉強にもかけていて、ターゲットとしては小中学生なのでしょうね。このあたりは『ハイスクール・ララバイ』の世界とかなり近いものを感じます。ちなみに作曲の椎名和夫は、どちらかというと編曲家としての実績が多くて、作曲家としてのヒット曲はほとんどありません。編曲家としては中森明菜『DESIRE-情熱-』の実績が飛びぬけていて、あとは中島みゆき、甲斐バンド、石川秀美、薬師丸ひろ子などのシングル曲にも携わっています。
そんな『悲しきエクササイズ』ではありましたが、欽ちゃんのパワーもそろそろ低下してきていたこともあり、この曲はあまりヒットしませんでした。オリコン最高は29位、売上も3.1万枚とパッとせず、番組も終わってしまったことで、2枚が出るということもなく、おめで隊は解散してしまったのです。80年代の前半には受けた欽ちゃん的コミックソングも、後半になると人々の心にあまり響かなかったということでしょうか。それとも、番組自体の注目度が落ちてきたからでしょうか。或いはメンバー3人の個性が弱かったのかもしれません。いずれにせよ、イモ欽トリオの夢をもう一度とはいかなかったようです。ただし、正木慎也と中村亘利の2人については、それぞれ別のグループで、ヒット曲を出すことになるわけですから、これはこれで本格デビュー前の良い思い出ということでいいでしょう。
この後も、バラエティ番組由来のヒット曲は継続的に誕生していく何で、欽ちゃん、山田邦子やウッチャンナンチャン、とんねるず、さらにはガレッジセールなどの手によってその手法は受け継がれていくわけです。