80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.69

 

NIGHT OF SUMMER SIDE  池田政典

作詞 売野雅勇

作曲 NOBODY

編曲 新川博

発売 19875

 

 

 

バブル期の象徴、肩パッドがっちり系ダボダボジャケットに身を包んだイケメンシンガーが放った、車、車、車の唯一のトップ10ヒット曲

 

 19868『ハートブレイカーは踊れない』で歌手デビューした池田政典。バブル絶頂期に向かってまっしぐらのこの時代に、当時流行していた肩幅ががっちりしたダボダボスーツやジャケットを着て、女性たちのハートをつかんだイケメン風(けっしてイケメンとは言い切れないのですが、歌っている雰囲気はイケメン以外の何物でもない感じ)シンガーです。そのデビュー曲はオリコン18位という結果を残し、続くShadow Dancer(19873)18位と、もう少しでブレイクというところでリリースした3枚目のシングルが『NIGHT OF SUMMER SIDE』です。そのファッションやルックス、曲調あたりをみると、ライバルとしては清水宏次朗とか吉川晃司とかそのあたりになったのでしょうか。

 

 3枚目シングル『NIGHT OF SUMMER SIDE』はタイトルの通り、夏に向けて発売されたサマーソングです。作詞は2枚目『Shadow Dancer』と同じ売野雅勇、作曲はそれまでの2曲を担当した林哲司に変わりNOBODYが担当。もっとも林哲司作曲と言われてもまったく違和感がないような曲と音になっていて、狙っているところにぶれはありません。スーツやジャケットにこだわったステージ衣装や、ちょっとテンポを速くしたオメガトライブのような音といい、スマートな都会派のシティポップスシンガーという路線は明確です。ワイルドなオラオラ系でもなく、母性をくすぐるような可愛い系でももちろんなく、あくまでもスマートに女性をエスコートできるような頼りがいがあって隙のない男、そんなイメージに合わせて、曲もリリースしているような、そんな印象はありました。

 

 当時の男性が歌うシティポップ系の歌には、まず必ずと言っていいほど車に関係する言葉が歌詞のどこかに出てきたもので、都会派ソングには車が必須でした。杉山清貴&オメガトライブなんてその最たるアーティストだったりするわけですが、この池田政典の曲にも車関連のワードが頻出します。『ハートブレイカーは踊れない』では《夜をこのまま走り続けて 泣かせるクラクション》。4枚目FORMULA WIND(19882)では《チタンの火花を胸にまきあげて 駆けぬけろ》《燃えるかぜになれ 栄光のフラッグを》とカーレースがひとつのモチーフになっています。5枚目『君だけ夏タイム』(19886)では《海岸線(クリフサイド)の交差点でキスしたね 並んだクーペから身を乗り出して》、6枚目にいたってはタイトルが『バックミラーに消えた恋』(19899)ですから、とにかく池田政典の歌は車、車、車なのです。その中でも『NIGHT OF SUMMER SIDE』は車だらけ、一番の歌詞は舞台が車の中ですから、当たり前といえば当たり前なのです。《アクセルの悲鳴》《軋むタイヤ》《飛び出したクーペ》《振り切りドア閉めた》《ハイウェイ・ジャンクション》…。

 

この曲、実はとんでもない歌で、見知らぬ女性がいきなり車に乗り込んできて、どこでもいいから走ってと、いわれるままに車を走られているうちに恋におちたという、まー、なんというか、軽いというか、女も女なら男も男というか、現実感がなく、まるで描いた妄想を歌っているような内容なのです。でもこれがバブル時代なのですよね。それでもって、この曲はオリコン最高7位を記録するという、池田政典にとって唯一のトップ10入りのシングル曲となったわけですから、いやはや、という感じなのです。今思うと、歌手池田政典という存在は、まさに1980年代後半という時代を映し出したような存在だといえるのかもしれません。

 

ただカッコから入ったような歌では長くは続きません。続く4枚目『FORMULA WIND』が惜しくも11位で終わると、『君だけ夏タイム』の18位を最後に、ヒットチャートのトップ20からは遠ざかっていきます。1990年代になると、池田政典自身、歌手業よりも俳優業に軸足を置くようになっていくのでした。