80年代青春歌謡365アーティスト365曲 vol.68
EMANON サザンオールスターズ
作詞 桑田佳祐
作曲 桑田佳祐
編曲 サザンオールスターズ
発売 1983年7月
復活して再び勢いに乗るサザンが、セールスを度外視してリリースした、けだるい心地よさを感じさせる大人の恋の歌
1980年代のサザンで1曲、どれを取り上げようかとあれこれ悩みましたが、セールス的には振るいませんでしたが、聴けば聴くほど味の出る大人の恋の楽曲『EMANON』を選んでみました。
サザンオールスターズの出す曲出す曲どれもがオリコントップ10に入るようになってくるのは、1980年代半ば以降で、それ以前はシングルが売れている時期とそうでない時期がわりとはっきりしていました。『勝手にシンドバッド』(1978年6月)のデビューでいきなり売れた勢いで、5枚目の『C調言葉に御用心』(1979年10月)までは連続してトップ10入りを果たしますが、6枚目『涙のアベニュー』(1980年2月)から13枚目『栞のテーマ』(1981年9月)までは、トップ10に一度も入ることもできない時期が続くのです。この時期の曲には、その『栞のテーマ』や『いなせなロコモーション』(1980年5月)などの佳曲も含まれていて、けっして楽曲が悪かったということばかりではないのですが、なぜか低迷していました。そんな空気を払しょくしたのが14枚目『チャコの海岸物語』(1982年1月)で、この曲をきっかけに再びヒットロードを歩み始めたのです。17枚目『ボディ・スペシャルⅡ』まで4曲連続でトップ10入りと復活したサザンが、その中で18枚目に出したシングルが『EMANON』でした。
この『EMANON』は最初からセールスを期待して出されたものではないのは、同曲が収録されているアルバム『綺麗』と同時発売されているということからも明らかです。アルバム売るためのプロモーション的シングルという意味合いが強く、ですから楽曲自体も地味です。最初に1回聴いただけでは、あまり印象も残らないような曲で、どう聴いても売れ線とはいえないものでしょう。それを敢えてシングルとして切ってきたわけですから、それなりの思いというものはあったはずです。『綺麗』の中からでもセールスに結びつけようとするのなら、『マチルダBABY』とか『赤い炎の女』あたりの方がキャッチーですし、『旅姿六人衆』などというすぐれたバラードもあります。それが一番地味ともいっていい『EMANON』なんですね。
ただこの『EMANON』聴けば聴くほど、味わいのあるいい曲だと思えてくるのです。この曲もアルバムも夏に出されたということもあり、海のある夏の避暑地で経験した大人の恋を思い出しながら、どこか暑さの中でけだるく振り返っているようなそんな楽曲になっています。当時高校生で、ようやくお小遣いでアルバムを買えるようになった私が、夏の1枚として買った『綺麗』だったのですが、午前中に部活動をして疲れて帰ってきたけだるい暑さの真夏の昼間に、ステレオが置いてある応接間のソファに座って『EMANON』を聴くのがなんとも心地よかったことを今でも思い出します。
《二人で歩いた真夏のビーチ》《砂の浜辺で口づけた》《風に身を投げるライムの樹よ》で、避暑地の夏らしい映像が、まるで映画のように浮かび上がってきます。《シャレた緑がお気に入り麗しWoman》《波の音には感じやすくて抱きしめたら おしゃれな吐息で受け入れてくれた人》と大人の女性との夏の日の恋が蘇ります。ところが《心から大好きさ もう一度お前に逢いたいよ》《出来ることならあの日に帰りやり直すさ》《可愛い花のようなお前は今 どこにいるのか》《面影が目の前をかすめて 胸の痛みに変わる》と、会えなくなった彼女に未練たらたらなのです。こんな歌詞がまたぴったりとはまるけだるいメロディーが実に味わい深くて、それまでのどのシングル曲とも違う雰囲気の曲が『EMANON』だったのです。
結果は、やっぱり売れませんでした。ファンはシングル『EMANON』を敢えて買わなくても、アルバム『綺麗』を買ってしまえば済んでしまうのですから仕方ないです。シングルだけ先行して発売するということもしなかったのですし、オリコン最高24位、売上6.1万枚という結果は妥当といえば妥当なのでしょう。その後、続く『東京シャッフル』(1983年11月)も最高23位で終わり、再び低迷期に入ってしまうのかとも思われたのですが、『ミス・ブランニューデイ』(1984年6月)でトップ10復活。『Tarako』(1984年11月)の11位を挟んで、『バイバイマイラブ』(1985年5月)以降は、トップ10入りを逃すことがないビッグバンドとなっていくわけです。もし『EMANON』がもっと後にシングルリリースされた曲だったら、トップ10に入ったのでしょうか。ただこの曲に関しては、敢えてトップ10に入らずにヒットしなかったというところにこそ意味があると、私は思うわけです。
最後に、サザンオールスターズのシングル曲で好きなベスト10を選んでみました。
1 LOVE AFFAIR ~秘密のデート~
2 思い過ごしも恋のうち
3 いなせなロコモーション ★
4 栞のテーマ ★
5 いとしのエリー
6 エロティカ・セブン
7 EMANON ★
8 ミス・ブランニューデイ ★
9 あなただけを ~Summer Heartbreak~
10 C調言葉に御用心
★=80年代発売